プロローグ
「藤女子学院」
その名前は、ただの学校名ではなかった。ここは、戦剣――特別な剣を使いこなす者たちが集う、日本で唯一の戦闘術を学ぶための場所
しかもその資格を持つのは、女性だけという特別な条件がある。その門の前で、一人の少年が立ち尽くしていた。
校門からは、笑顔で登校する女子生徒たちの姿が見える。この学院は、普通の学校と変わらないように見える。
実際、多くの一般生徒が勉学に励み、部活動に勤しむオープンな環境だ。
しかし、その一方で、ごく一部の生徒だけが戦剣を扱う「選ばれた者」として特別な訓練を受けている。
その門を前に、少年は静かに目を閉じ、決意を噛み締めていた。
「俺も、今日からここに通うんだ」
母が自分を庇い重傷を負ったあの日、何もできなかった自分。
父の勧めで、叔母である楓のもとで剣術を学び始めた日々が頭をよぎる。
楓に鍛えられ、確かな手応えを得てきたとはいえ、今も胸の奥には母を守れなかった無力感が消えない。
学院への入学を押し通したのは父だった。学院を運営する楓の夫の康介に強く頼み込み、特例として主人公を受け入れさせた。
戦剣を扱えるのは本来女性だけという決まりを覆すのは容易ではなかったが、父の熱意に動かされた康介が最終的に道を開いたのだ。
少年は校門をくぐり、広い校庭を見渡した。妹が持つ母の剣。そして、自分にはまだ手に入らない戦剣。
この学院で何を成し遂げるべきか――それを問い続けるのはもう終わり。ここで戦い、自分に与えられた役割を果たす。それが彼の決意だった。
「ここから始めるんだ」
彼はまっすぐに校舎へと続く道を歩き出す。その瞳には、覚悟と希望が宿っていた。