市場への道中
ザシュッ
ドンッ
クライヴが剣を振るうと同時に、魔物が倒れる音が鳴り響く。
家を出てから、もう何体目だろうか。
クライヴがいなければ、とっくにやられていただろう。
「それにしても、本当に強いですね」
そう。
クライヴはめちゃくちゃ強いのだ。
出会った魔物がどの程度強いのかは知らないが、どんな魔物と遭遇しても数秒で倒す姿は圧巻だった。
倒した魔物によってはその場で皮を剥ぎ、血抜きをし、解体する。
おそらく食料にするのだろうが、その手捌きも鮮やかだ。
「魔物のおかげで、この森には人が滅多に来ない。住みやすくて助かっている」
「ははは……」
もはや、言っている意味がわからない。
「今日はここに泊まることにしよう」
「え?まだ明るいですよ?」
時計がないので分からないが、太陽の位置的に3、4時くらいだろうか。
泊まる場所を決めるには早すぎるように思えた。
「私の体力を気遣う必要はないですよ。意外と疲れてません!」
本当は少し疲れていたが、足手まといになりたくなくて虚勢を張ってしまった。
「こういう場所で嘘をつくと命取りになるぞ」
「すみません。。」
「暗くなってから泊まる場所を決めるのは危険なんだ。1人で行動する時も、このくらいの時間には野宿の準備をする」
お前のせいではない、とフォローを入れつつ、クライヴは荷物を下ろし、木の枝を集めだした。
私も手伝おうと立ち上がろうとした瞬間、ガサッという音が聞こえた気がして振り返る。
しかし、何もない。
気のせいだろうか?
念の為、ここを離れてクライヴの方へ向かおうとした時だった。
グガァアァァ!
「逃げろ!」
魔物の咆哮が聞こえると同時に、クライヴがこちらへ走ってくるのが見えた。
振り返る暇は無い。とにかくクライヴの方へ向かって走ろうとするが、恐怖から上手く足が動かなかった。
おそらくこのまま走っても追いつかれるだろう。
少しよろけながら周りを見ると、何かがキラッと光った気がした。
光った方向を見ると、前方右側すぐ近くに、根元の方から二股に別れた大木があるのが見えた。
“こっちだよ”
声が聞こえた気がした。
咄嗟に、その木の方へと向かい、二つに別れた幹の間をくぐった……と思ったら、景色が変わった。
目の前に、後ろ向きのクライヴとそれに対峙する魔物が見える。
ザシュッ
数秒後に魔物はクライヴによって真っ二つにされた。
あのままだったら、二つになっていたのは私だっただろう。
クライヴが振り返り、私を凝視する。
「ははっ……妖精のイタズラ、か」
“クローゼットや鏡、森の木々の間などは別の世界と繋がっていて、ふとした瞬間に吸い込まれてしまうことがある”
ーー私は、以前クライヴから受けた説明を思い出していた……