葛藤
ブレンが今まで見たこともないような顔をしている。
そんなに父親に会うのが嫌なのだろうか?
ブレンはうーん、と唸り続けており、隣りでエドガーさんがヒソヒソ言っている。
「うーーーーん」
「何を嫌がっているんですか!会うだけで研究できるなら、安いものでしょう!領土をくれとか、そういう話しじゃなくてよかったですよ!」
「いやぁ、領土をあげる方がいいかなぁー」
「バカなんですか!?そんな訳ないでしょう!会うなんて一瞬ですよ!」
「うーーー。嫌だあぁぁぁ」
「駄々こねないでください!」
また漫才みたいなことをしているようだった。
「アル!それだけは嫌だ!他のことなら何でも叶えるから!他のことにして!」
「兄様、ダメです。なんでそんなに嫌なんですか?」
「会うのも嫌だけど。行くのに片道1週間くらいかかるじゃないか。僕、残り3ヶ月しか生きられないかもしれないんだよ?時間の無駄じゃないか」
ブレンは頬を膨らませて、子供みたいな表情をしている。
「一瞬で行けるって言ったら、どう?」
ニヤニヤしながら、ミラベルからもらった鈴を取り出してブレンに渡す。
ブレンは食い気味に鈴を受け取り、触ってみたり、鳴らしてみたりしている。
「これ、もしかして……!」
「残念だけど、ただの鈴らしいよ。でも、これがあれば1回だけ転移できるらしい」
「そんな貴重なもの、もらっていいの!?早速研究しよう。エドガー!」
「だーかーら!これ自体はただの鈴だってば。3回連続で鳴らしたら、もう1つの鈴のところに転移させてくれるらしい。これで、時間をかけずに移動できるでしょ?」
ただの鈴だと分かり、ブレンは見るからに落ち込んでいる。
「いや……待てよ?鈴は関係なかったけど、転移できることにはかわりないよね。その瞬間に何が起きているのかを調査することはできるはずだから……エドガー!早速準備を!」
「はぁ……。で、父親には会うということでいいのね?」
「それとそれは、話が別というか……関係ないタイミングで鈴を鳴らしちゃえば、転移だけ経験できるかなーなんて……」
ブレンはどうしても父親に会いたくないらしい。
それほど傷ついているということなのだろう。
「どうするかはブレン次第だよ。どちらにしろ、私は留学期間が終わったら帰るからね。ブレンがその鈴を使って父親に会いに来てくれたら、ブレンが帰る時に私も一緒にエリノア王国まで行ってあげる」
「父上には帰国した次の週に会うことになっています。そのタイミングで俺の部屋に転移してきてもらえるよう、準備しておきますので」
私とアラステア皇太子の説明を聞いて、ブレンは項垂れている。
父親に会うデメリットと、私が研究に協力するメリットを天秤にかけているのだ。
いつもなら、迷うことなく研究を選ぶブレンがこれだけ悩むということは、相当父親が嫌いなのだろう。
無理に会わせるのは違うのかもしれない。
会わない方がいいのかもしれない。
世の中には、一生会わない方がいいような親もいる。
でも、アラステア皇太子を見ていると、国王はそこまで酷い親ではないような気もするのだ。
「まぁ、考える時間はまだまだあるからね。とりあえず、暴走している人達に会いに行こうか」
とりあえず今は眠らされている人達を治しに行くことが最優先だ。
悩むブレンを部屋に残し、エドガーさんの案内に従って部屋を出た。




