収拾
目を開けると、病室だった。
どのくらい眠っていたのだろうか?
横を向くと、隣のベッドにクライヴが寝かされている。
さらにその奥にはブレンも寝かされていた。
「おっ、起きたか。医者を呼んでくる」
アラステア皇太子がベッド近くの椅子で本を読んでいる。
こちらを見た後、パタンと本を閉じて立ち上がり、部屋から出ていこうとした。
医者を呼ぼうとしているのだろう。
「ちょっと待ってください。その前に、少しだけ話があります」
「医者を呼ぶよりも、大切なことか?」
「そうですね......ブレンが起きる前に、話しておきたいんです」
ブレンの名前を聞くと、アラステア皇太子は素直にこちらへやってきて、私のベッドの近くの椅子へ座る。
「兄上について、何かあるのか?」
「実はですね......」
アラステア皇太子に、ブレンを父親に会わせたいこと、そのために1度だけ転移を使えることを話す。
その上で、ブレンを説得する案を伝えた。
この作戦には、アラステア皇太子の協力も必要になる。
「これくらいしないと、ブレンは嫌がると思うのですが、どうでしょう?」
「賛成だ。父上の反応が気になるところではあるが......とりあえずやってみよう」
これで準備は整った。
これまでずっとブレンの手のひらの上で踊らされてきたのだ。
最後くらいはこちらの思い通りに動いてもらってもいいだろう。
ーーーー
私とクライヴは退院し、残りの留学生活を楽しんだ。
ブレンはあの後1週間ほど眠り続けたらしい。
......まぁ、眠り続けたのか、起きると騒ぐので眠らされていたのか、どちらかはわからないが。
とにかく明日、退院できるようだ。
「会長が明日、退院します。その日のうちにマナさんから話しを聞きたいと騒いでいるのですが、よいでしょうか?」
「もちろんです。この国にいられる期間も残り1週間をきりましたし、そろそろあの日何があったのか、説明したいと思っていました」
残りの期間は、暴走して眠らされている人達の治療に使いたいと思っている。
ブレンと同じなら、私が触れることで暴走を止めることが出来るはずだ。
「では、今日の昼食後に場を設けますのでよろしくお願いいたします」
エドガーさんは丁寧にお辞儀をしたあと、去っていった。
午後の話し合いの場で、ブレンを父親に会わせるために説得しなければならない。
よしっと気合いを入れ直し、話し合いに向けて頭の中でシュミレーションをしながら時間を過ごした。
ーーーー
「で!何が起こったの!?」
部屋に入るなり、前のめりになって話すブレンが目に入ってきた。
今にも飛びかかってきそうな勢いだ。
「ちょっと、落ち着いてよ。大丈夫。私は逃げたりしないから」
「落ち着いていられるわけがないよ!1週間も眠らされていたんだよ!?いつ帰るんだっけ?留学は延長できるっけ!?!?」
「待って、待って!順を追って話すから。まずは座らせてもらってもいい?」
エドガーさんに促されて席に座る。
ブレンは眠らされていたことにも怒っているようだった。
簡単にあの日のことを説明する。
私が媒介となり、枯渇した魔力が自然エネルギーで補われ、崩れた均衡が元に戻ったこと。
他の人も同じ原理で救える可能性があること。
生まれつき病で苦しんでいる人達は、研究次第では私の力で改善できるかもしれないこと。
「面白い......!面白すぎるよ!!」
「暴走して眠らされている人達は、残りの留学期間でできるだけ助けたいと思っているんだけど、どうかな?」
「そう言ってもらえると、助かるよ。早速この後から協力してもらってもいいかな?」
「もちろんいいよ。ただし、暴走が止まったからといって寿命が戻るわけではないからね」
「わかった。僕の寿命も、もう残り少ないだろうね」
「妖精さんによると、3ヶ月から1年だって。魔法ももう使えないからね?次に使ったらまた暴走するから気をつけて」
「もう死ぬまで魔法は使えないのかぁ......寂しいな。まぁでも、3ヶ月もあれば十分研究できるからよかった」
普通なら3ヶ月と聞いて悲観するだろう。
でも、ブレンにとっては研究が完了するかどうかの方が重要なようだった。
「僕が生きている残りの時間、お姉さんには可能な限り研究に協力してもらいたいんだけど、いいかな?」
ブレンの言葉に、私とアラステア皇太子はニヤリと笑った。
「マナは貴重な人材です。エリノア王国に留め置くのであれば、兄様にお願いしたいことがあります」
「もちろん!なんでも叶えるよ!アルからの条件ってことは、個人的なことというよりは、国が関係するのかな?」
ブレンもエドガーさんも何でもする、と息巻いている。
これなら大丈夫そうだ。
「国も関係ありますが、家族の問題です。父上に会ってください」
アラステア皇太子の言葉を聞いて、ブレンは苦虫を噛み潰したような顔をした。




