終焉
私が媒介となることで、病の人達を助けることができるかもしれない。
そう思うと、自然と頬が綻んだ。
「暴走しかけている人達の子供も苦しんでいるらしいのですが、それも、治りますかね?」
「どうかしら......。おそらく、その子供たちは魔力を体内に溜めておく機能が生まれつき上手く働いていないのね。治るかどうかは私にも分からないわ。ごめんなさい」
まぁ、そんなに都合良くいくはずがないか。
でも、私を研究することで分かっていくこともあるはずだ。
悲観することはない。
「では、私達はもう行くわね」
「あの!最後に、アンジュとモイラに挨拶できませんか?」
「もちろん、いいわよ」
ミラベルがアンジュとモイラにふぅっと息を吹きかける。
息はキラキラとした風になり、アンジュとモイラにふりかかる。
しばらくすると、2人はゆっくりと目を開けた。
「ミアー!!!うわぁぁぁん!!!」
突然、アンジュが泣き叫びながら飛び起きた。
「アンジュ、泣かないで。大丈夫よ」
「うわぁぁぁ......ん?なんで、神様がここにいるの、なの?」
アンジュが泣きはらした目でミラベルを見つめる。
モイラも起きてきて、ミラベルを不思議そうに見つめている。
「2人のことが心配で来ちゃったのよ。ねぇ、アンジュ。大丈夫よ。今、ミアはね、生まれ変わる準備をしているの」
「生まれ変わる準備......なの?」
「そう。寿命を迎えた後は、みんな、自然に還るの。そして、また生まれてくるのよ?その時は貴方より小さい妖精になっているから、アンジュはお姉さんになるわね」
「アンジュ、お姉さんなの!?楽しみなの!」
アンジュは嬉しそうに飛び回っている。
そんなアンジュをミラベルとモイラは愛おしそうに見つめている。
「ほら、アンジュ、モイラ。マナに最後の挨拶をして。おそらく、これが最後だから」
「最後なの!?いやなの!寂しいの!」
アンジュは子供のように駄々をこね、私の服にしがみついてきた。
あまりにも可愛くて、思わず笑ってしまう。
「アンジュ、そもそも人間には姿を見せちゃいけないのよ?」
「......!そうだったの。忘れてたの」
シュンとして俯く姿も可愛い。
私はこの小さな妖精さんに、何度も命を助けられたのだ。
本当に感謝している。
私もアンジュに会えなくなるのがたまらなく寂しく感じた。
「アンジュ、私も寂しいよ。でもさ、もう会えなくても、私はアンジュを一生忘れないよ」
「......」
アンジュは俯き続けている。
「アンジュも私の事、忘れないでね?」
「............うーーーぅ、なのぉぉぉ」
俯いていたかと思ったら、急に唸りだす。
下を向いたまま眉間に皺を寄せて、何かを考えているようだ。
どうしたのだろうと顔を覗き込もうとした時、アンジュはガバッと顔を上げて、大きな声で話し始めた。
「いいことを思いついたの!姿を消した状態で、たまに見に来るの!それなら、ルール違反じゃないの!」
いいことを思いついた、と繰り返し言いながら、クルクルと飛び回るアンジュに思わず笑ってしまう。
ミラベルも笑いながら、それくらいは許してあげる、と言っていた。
「あ!そういえば、マナにあと1回だけ転移させてあげるって約束してたの!約束を破るのはダメなの!どうしよう、なの」
「あら。そんな約束をしていたの?」
「マナが元の世界に帰りたくなるかもしれないと思ったの」
「そうねぇ......でも、元の世界にマナを返すことは難しいんじゃないかしら?私の力でも、かなり難しいわ」
「でも、何とかしたいと思ったの」
すっかり忘れていたが、そんな約束をしていた。
でも、私は元の世界に帰るつもりはない。
魔法の過剰使用で苦しんでいる人達のために役に立ちたいし、城でエイベルと働くのだって楽しい。
このままこの世界で生きていくつもりだ。
「私は、元の世界には戻りません」
「......そのようね。まぁでも、約束は約束だし、色々と迷惑をかけたお礼に、1回だけなら協力してあげてもいいわよ?」
「そうですね......」
私は数秒考えた後に、口を開いた。
「その転移、私じゃない人に使ってもいいですか?」
遅くなりましたが、本日の投稿です。




