鎮静
「よし。行こう」
クライヴの言葉に、緊張が走った。
全員の視線が竜巻へと注がれている。
クライヴがゆっくりと竜巻の中へ入っていく。
一歩一歩、確実に前進するクライヴを見ていたら、自然と祈るような形で手を組んでいた。
「薬の準備は出来ました!会長が気絶して、竜巻が止まり次第、投与できます!!」
エドガーさんが注射器を手にして叫ぶ。
微かにクライヴが頷いた気がした。
モイラは手に力をこめ続けている。
アラステア皇太子は、風でドアが閉まらないように必死でドアを抑え続けている。
私に出来ることが何も無いことが、もどかしく思えた。
ほんの数分が、数時間にも感じる。
こんなに時間が長く感じたことはない。
「クライヴさん!もう、無理です!!もちません!!!!」
モイラが叫ぶ。
もうダメかと思った瞬間、クライヴがブレンの首に手刀を入れるのが見えた。
竜巻が止む。
ーー成功したのだ!!
「上手く......いったのか?」
「さすがです、クライヴさん!今、そちらへ行きますね!!」
エドガーさんが薬を持ってクライヴとブレンの元へと向かう。
アラステア皇太子を見ると、疲労困憊といった感じで、肩で息をしていた。
緊張が解け、全員の表情が和らいでいる。
あぁ。よかったーー
気がついたら、私も地面に座り込んでいた。
無意識のうちに足に力が入っていたのか、膝がガクガクする。
力尽きたように、モイラがフラフラと落ちていくのが見えた。
急いで傍に行き、地面に落ちる前にキャッチする。
「私はいいです。アンジュをお願いします......」
そう言いながら目を閉じたモイラをそっと寝かせて、アンジュの元へと向かう。
アンジュは気絶しているだけのようで、呼吸に合わせて胸が上下していた。
ゆっくりとアンジュをすくい上げ、モイラの隣に寝かせる。
後で2人とも私のベッドで寝かせてあげよう。
「クライヴさん、腕を抑えていてください。そこに打ちます」
「あぁ、こんな感じか?」
「完璧です。そのままでお願いします」
エドガーさんとクライヴが薬を投与しようとしているのが見えた。
これで一件落着のはずだ。
全員がそう思って、胸をなでおろした時だった。
気絶したブレンの体がぶわっと浮き上がる。
薬を投与しようとしていたエドガーさんとクライヴが吹っ飛び、壁に打ち付けられたのが見えた。
ヤバい。
本能が逃げろと告げている。
「兄様!?!?」
アラステア皇太子がブレンに向かって走るのが見えた。
このままではアラステア皇太子が死ぬ。
理由は分からないが、そう感じた。
気がついた時には私もブレンに向かって走り出していた。
何も出来ないのが分かっていながらも、走る足を止められなかった。
「ダメだ!!!行くな!!!!」
クライヴの叫び声が聞こえる。
でも、足を止めることはできない。
私はブレンに向かって走り続けた。




