家族
話が予想外の方向に向かい始めた。
ブレンは魔法の話は一切せず、アラステア皇太子にこの国に残れと言う。
そんなブレンの様子にアラステア皇太子も困惑しているようだった。
「アル。好きな食べ物はある?」
「好きな食べ物ですか?えーー、そうですね......何でも好き嫌いなく食べられますがーー」
「じゃぁ、趣味は?」
「乗馬でしょうか?」
「乗馬?本当に好きなの?乗馬はやらされているだけじゃなくて?」
「そう言われると......そうですね......」
ブレンの質問は、初対面の人によくするような、ありきたりなものだ。
それなのに、アラステア皇太子は一つも答えられないでいる。
「クライヴ、好きな食べ物は?」
「お、俺ですか!?俺はマナが作ったシチューが好きです」
「え!?今、この雰囲気の中で、そんな返答します!?」
「いやだって、正直に答えた方がいいかと」
クライヴは嘘が付けない男だ。
そんなクライヴを見て、笑いながらブレンは続ける。
「いいんだ。クライヴなら正直に答えてくれるかなって思って聞いたから。ねぇ、アル。普通の人はすぐに答えられるんだよ?答えられないのは変だと思わない?」
「そう言われましても......」
やりとりを見ていて、悲しくなってきた。
アラステア皇太子は、皇太子として育てられた結果、自分のことがよくわからなくなっているのだ。
逃げなければこうなっていたのはブレンだった。
それがわかっているからこそ、ブレンには罪悪感があるのだろう。
「ねぇ。アルには心のリハビリが必要なんだよ。本当に心配なんだ。アルは僕のたった一人の、大切な家族だから」
「たった一人の家族って......何を言っているんですか。確かに母上は小さい頃に無くなりましたが、俺達には父上がいるではないですか」
「あんなのは家族じゃないよ」
「何を言っているんですか!?」
「ねぇ。僕が生きているって知って、父上は喜んだ?成長した僕の姿を一目見たいとかって言った?」
「それは......」
「言わなかっただろう?血の繋がりはあるけれど、そんな人は家族とは言わないんだよ」
ブレンの言葉に辺りがシーンとなった。
私達は国王がブレンは死んだままでいいと言ったのを聞いている。
ブレンが生きていると知って、明らかに面倒そうにした姿を見てしまっている。
少なくとも、正常な親子関係とは言えないだろう。
「ですが......」
「ねぇ、アル。アルは家族の温もりというものを知らずに育ってしまったんだよ。僕がそれをあげられればよかったんだけど、7年前の僕にはできなかった。でも、今ならできるよ。ここで一緒に暮らしながら、本来のアルを取り戻していくお手伝いをさせてよ」
アラステア皇太子は困っているようだった。
国を捨てる訳にはもちろんいなない。
しかし、ブレンの言うことに心が揺れているようでもあった。
「僕はね、この国に来て、家族の温もりを知ったんだ。そして、ようやく人らしくなれたって思っている。マナとクライヴは会ったことあるかな?イレインって言うんだけど」
もちろん忘れるわけがない。
クライヴも覚えている、と頷きながら剣を差し出した。
「この剣をくれた女性ですよね」
「あぁ!その剣!まだ使ってくれていたんだね。そう、その剣の女性だよ。僕にとっては母親みたいな人なんだ。僕に家族の温もりをくれた、大切な人だよ」
「そういえば、まだ会っていませんが、お元気ですか?」
クライヴの言葉にブレンは悲しそうな顔で首を振った。
なんだか嫌な予感がする。
「彼女は暴走してしまったんだーー」




