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難問

昼食が終わり、魔法研究所の見学が始まった。

どの部屋も活気があり、真剣に研究がなされている。


何よりも、普通に魔法を使っている人がいることに驚いた。

暴走しない範囲で魔法を使い、研究以外の目的で魔法を使用しないこと、定期的に健康診査を受けることの2つを守れば、かなりの金額が貰えるらしい。

寿命は縮むが生活には一生困らないということで、一部の人達にとっては有難い仕事のようだ。


「これはこれで、アリだな。国として上手く成り立っている。これなら、親の貧困が子供に影響することもない」

「でも、上手くいかなければ最悪ここで働けばいい、みたいになりませんか?易きに流れる、的な」

「そういう者は、どんな状況でも上手くいかないだろうよ」


さすが、一国の王子だ。

これから国を動かす者としての視点で見学をしている。


クライヴはクライヴで、魔法そのものを熱心に観察し、研究者に質問をしていた。

ブレンのことは勿論気になるだろうが、せっかくの機会なので、学べることは学び尽くそうという姿勢が見える。


「さて。今日の見学はこれで終わりです。明日からは魔法学校の授業に参加いただいてもいいですし、気になる研究があれば、明日以降その研究室で学んでいただいても構いません」


研究所を案内してくれたエドガーさんに、クライヴはいくつかの研究が気になるという話しをして盛り上がっている。

アラステア皇太子も、魔法と政治の関係が気になると話している。


「マナさんはどうしますか?」

「え?あー、その。ちょっと考える時間をください」

「もちろんです。決まりましたら連絡をください」

「あの、話は変わるのですが、ブレンと話すことはできますか?」


ブレンとのことが気になって、明日からどうするのかを考えていなかった。

とりあえずブレンと話さなければと思い、エドガーさんに聞いてみる。


エドガーさんはにっこりと笑って「その言葉、待っていました」と答えた。



ーーーー


「皆!来てくれたんだ。思ったよりも早かったなぁ」


ブレンの仕事部屋に案内される。

部屋に入ると、ブレンは笑顔で出迎えてくれた


「昨日は怖がらせてごめんね。僕から話したいって言ったら、もっと怖がらせちゃうかなと思って。皆から会いたいって言ってもらえるまで待つことにしていたんだ」


ブレンが手ずからお茶を入れてくれる。

昨日とは打って変わって落ち着いた様子だ。


「妖精の話もしたいところだけれど、それよりも先に話さなければならないことがあるんだ。お姉さん、いいかな?」

「もちろんいいよ。話って何?」

「うん。ちょっとね」


ブレンは私たちにお茶を手渡し、最後に自分のコップを手に取った。

ふーふーとお茶を冷まし、ゆっくりと一口飲んだ後、静かにアラステア皇太子の方を見て、口を開いた。


「アル、君もこの国に来なよ」


これまで見たことがないほど真剣な顔だ。

アラステア皇太子を見る目はまるで、親が子を見るかのように慈愛に溢れていた。


「兄様、何を言っているんですか?俺はもうこの国に来ていますよ?」

「そうじゃない。一生この国で暮らしなよって言っているんだ」


ブレンは一切目を逸らさず、じっとアラステア皇太子の目を見ている。

そんなブレンの様子に、アラステア皇太子は焦り始めた。


「な、何を言っているんですか。兄様、冗談ですよね?」

「冗談じゃない」

「でも、俺がこの国に来てしまったら、誰が次の国王になるんですか?」

「そんなの、どうでもいいじゃないか」

「ど、どうでもいいわけないですよ!」


アラステア皇太子は困惑している。

そりゃそうだ。

アラステア皇太子がいなくなったら、混乱が生じるだろう。

次期国王の座を狙って、内部で争いが起きる可能性もある。


「アル。アルは本当に国王になりたいの?」

「え?なりたいか、ですか?」

「そう。ならないと誰かが困るとか、誰かに失望されるとか、そういう他人の評価は関係ない。アル自身が国王になりたいと思っているのかを教えて欲しいんだ」

「そんなこと言われましても......考えたこともないです」

「考えたことがないなら、今、考えてみて」


アラステア皇太子は眉間の皺を深くして、考え込んでいる。

数分の後、首を振りながらつぶやいた。


「俺がいなくなったら、民が困りますから」

「考えることを放棄しちゃダメだ。一度他人のことは忘れて、本心ではどう思っているのかを聞かせて欲しい。逃げた僕がこんなことを言うのもなんだけど、大切なことなんだ」


アラステア皇太子は暫く考えた後、やはり首を振った。


「わかりません」

「わからないなら、帰っちゃダメだ。この国にいろ」

「そう言われましても」

「自分の本心がどうなのかを理解した上で、帰ることを選択するのはいい。でも、自分の気持ちが分からないほど重症なら、帰っちゃダメなんだ」


ブレンは悲しそうにつぶやいた。

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