旧懐
「あ、昔のようにアルって呼んじゃったけど、もう皇太子だもんね、失礼だったかな?」
「いえ、失礼なんてそんな!これからも、アルと呼んでください」
「そう言ってもらえると嬉しいな。今更、アラステア皇太子、なんて呼んだらよそよそしいもんね。三人とも、会えて嬉しいよ。クライヴも申し訳なかったね。積もる話は沢山あるけど、まずは再会を祝して、乾杯してもいいかな?」
私達は驚きのあまり無言でブレンの顔を見つめていた。
そんな我々の様子を見て、エドガーさんがため息をつく。
「ほらぁ、言ったじゃないですか。事前に手紙とかで伝えた方がいいですよって」
「だって、サプライズにした方が楽しいでしょ!?」
「会長って、そのあたりがちょっと非常識ですよねぇ...」
エドガーさんとブレンは漫才のようなやり取りをしている。
普段から仲がいいのだろう。
楽しそうに笑い合うブレンの姿は、小さい頃の憂鬱そうな姿からは想像できないほど生き生きとしていた。
ブレンはこの国に来て良かったのかもしれないと感じた。
一点を除いて......
「ブレン、その髪......」
ブレンの髪は真っ白になっていた。
以前は瞳と同じ、綺麗な緑色だったはずだ。
それがこんなに短期間で真っ白になるということはーー
「魔法の過剰使用......」
ぽつり、と言葉が漏れた。
私の言葉を聞き、ブレンは嬉しそうに話し始めた。
「凄い!白髪についてはあまり知られていないんだけどなぁ!」
「なんでそんなに嬉しそうなの?笑い事じゃないよ!?」
そう。
笑い事では無いのだ。
戦時中、暴走した魔法使いのほとんどが白髪になっていたと言われている。
どういった条件で白髪になるのかは判明していないが、少なくとも良い状態では無いのは確かなのだ。
「大袈裟だなぁ〜。大丈夫だよ」
楽しそうに笑うブレンを見て、悲しくなる。
この国にいる方が幸せなのであれば、連れ帰る必要は無いと思っていた。
アラステア皇太子がどう思っているのかは知らないが、少なくとも私はブレンが幸せになれる方を選んで欲しいと考えていた。
だが、自虐的な部分は何も変わっていない。
むしろ、実害がある分、今の方が悪いと言えるだろう。
「大丈夫じゃないよ。ブレン、白髪が何を意味するのか、わかっているんでしょう!?」
「ストープッ!僕に魔法について説教するのはやめてよね。こう見えて、この国で一番魔法について詳しいんだよ?ってことは、この世界で一番詳しいってことと同義だ。そんな僕に、魔法のことで説教できる人なんていないんだから。ね?エドガー?」
「まぁ、そうですね。残念ながら」
「残念ながらって、ひどいなぁ〜」
楽しそうにしているブレンを、信じられないという顔で見つめることしかできなかった。
「兄上、お久しぶりです。その、ご病気なのですか?」
「アル!本当に久しぶりだね!僕は至って健康だから心配無用だよ。ここまで来てくれて本当に嬉しい。さぁさぁ、デザートも来たみたいだし、乾杯しようよ!」
メイドさんが様々なデザートを運んでくる。
ケーキにマカロンに果物...いつもなら甘いものに目を輝かせていたところだが、今はそんな気持ちにはなれなかった。
「じゃぁ、カンパーイ!」
複雑な気持ちのまま、ブレン同席での会食が始まったーー




