留学
1ヶ月後、私は魔法博士になっていたーー
ーーと言えるほど、勉強したと思う。
魔法について勉強していて、魔法を使うメカニズムは結構面白いと感じるようになってきた。
魔法には、"体内に保有される魔力"、"魔力を使う素質"、"生命エネルギー"の3つが必要不可欠だ。
魔法を使うとそのエネルギーに相当する魔力が消費される。
以前、アラステア皇太子が"エネルギー保存の法則"と言っていた部分がここに当たる。
体内の魔力が減ると、生命エネルギーが消費されて魔力が作られる。
そして、一度に50以上の魔力を一気に使用すると暴走することが多いらしかった。
暴走については個人差があるのと、研究が進んでいる分野ではないことも相まって、分かっていないことの方が多い。
「よく勉強しているな」
「他人事だと思って......!めちゃくちゃ大変だったんですよ?特に歴史が!」
30代の記憶力をなめてはいけない。
受験生のようにはいかないのだ。
覚えたと思っても、寝れば忘れる。
そもそも覚えられない......!
アラステア皇太子を睨みつけると、クライヴが「まぁまぁ」となだめてきた。
「あまり怒るな。アラステア皇太子だって、激務の中、魔法の練習に励んでいたんだ」
「そうだぞ。2週間の留学で、移動も含めると1ヶ月は城を離れることになる。その間、俺が居なくても大丈夫なように前倒しで仕事をしていたんだ」
よく見ると、確かに少しやつれている。
対照的に、クライヴはかなり元気そうだった。
「この1ヶ月で大体の魔法は使えるようになった。寿命は少し縮むが、遭難した時や命の危機に瀕した時に使えると思うと便利だな」
先程から魔法の面白さについて、饒舌に語っている。
ブレンを連れ出すのが主目的のはずなのに、本当にエリノア王国で魔法を学べるのが楽しみになっているようだった。
「さて。二人とも準備は万端だな。エリノア王国に向かって出発しよう」
アラステア皇太子の号令で、エリノア王国への旅が始まった。
旅と言っても馬車に乗っているだけだから、大したことは無い。
皇太子が移動するのだから、快適な旅になるように配慮されている。
なんだか、クライヴと市場へ行くために森を歩いたのが懐かしく思えた。
エリノア王国までは1週間ほどかかる。
私は馬車の中でもひたすら魔法の本を読み、最後の追い込みをかけるつもりだ。
アラステア皇太子はというと、馬車の中でも仕事をしていた。
仕事に追われている、というのは本当なのだろう。
ずっと眉間に皺を寄せて書類を見ている姿を見ると、追い詰めた顔をしていたブレンが思い出されて、心配になった。
一方、クライヴは馬車には乗らず、馬に乗っている。
クライヴほどの実力者が警備に参加しないのはもったいないという判断だ。
ここにいるのはアラステア皇太子の側近だけで、彼らはクライヴが冤罪であることを既に知っているので問題ない。
クライヴ自身も馬車に乗るよりも馬で駆ける方が好きなようだった。
意外と1週間はあっという間に過ぎていった。
馬車の中で本を読みながらウトウトしていたら、コンコンという窓が叩かれる音で目が覚めた。
何かと思いカーテンを開くと、クライヴが前方を指さしている。
「クライヴ?どうしました?」
「見てみろ、絶景だ」
窓から外を見てみると、パラパラと雪が降っていた。
見渡す限り辺り一面真っ白で、恐ろしくなるほどだ。
「この辺りは既にエリノア王国の領地だ。外に出て見てみるか?」
後ろからアラステア皇太子に声をかけられる。
せっかくなので外に出てみることにした。
既に毛皮のコートを着込んでいたが、それでも寒いと感じるほど空気が冷たい。
「クライヴ、ずっと馬に乗っていると寒くないですか?」
「風が当たる部分は寒いな。だが、ずっと運動しているようなものだから、体の芯までは寒くはない。それより、ほら、向こうを見てみろ。遠くに見えるのがエリノア王都だ」
言われた方を見てみると、微かに建造物群が見える気がした。
「今日の夕方には着きそうだ。クライヴ、マナ、覚悟はいいな?」
アラステア皇太子の声で気持ちが引き締まる。
とうとう、エリノア王国での留学が始まるのだ。




