就寝
「マナ……と言ったな。寝室はお前が使うといい」
とりあえず簡単な自己紹介をお互い済ませた。
この男はクライヴ、というらしい。
どう考えても日本人の名前ではない。
そもそも、髪の色は深い青色、瞳の色は紫色で、容姿も日本人ではないのだが。
家は木製で、ログハウスのような見た目である。
電気は通っていないのか、明かりは全てランプでまかなわれているようだった。
もしかしてお風呂があるかも、と期待したが、私の家のお風呂がある場所は物置きのような部屋になっていた。
また、私の家はダブルベッドだが、この家の寝具は木製のシングルベッド1つだ。
間取りが同じと言っても、完全に一致している訳ではないらしい。
「私が寝室を使った場合、クライヴさんはどこで寝るんですか?」
「俺のことは呼び捨てで構わない。寝る場所については、その辺で適当に寝るから気にしなくていい」
「その辺で寝るって……床にですか!?」
さすがに、突然他人の家にやってきて、そんな失礼なことはできない。
それに、この家は土足のようなので、床で横になるのは衛生的ではないだろう。
とはいえ、いい代案が思いつくわけでもなく困っていると、クライヴは床に座り始めた。
「座って寝るのは慣れているから問題ない」
剣を胸に抱きながら座る姿は確かに慣れているように見える。
しかし、慣れていればこの格好で寝て快適、という訳ではないだろう。
「……一緒にベッドで寝ます?」
「ふざけている暇があるなら早く寝ろ」
一応提案してみたが、一蹴された。
クライヴは目を閉じ、これ以上話すことは無い、というような雰囲気を醸し出している。
「いや、でもですね……?さすがにちょっと……」
クライヴに声をかけるが、返事すらしてもらえなくなった。
言う通り寝室で寝るしかなさそうだ。
寝室へ移動し、ベッドに横たわる。
思ったよりも寝心地はよかった。
元の世界に帰ることはできるのだろうか?
帰れなかった場合、この世界でどうやって生きていけばいいのだろうか?
世の中に溢れる異世界転移ものは、元の世界の知識を使って活躍したり、何かしらチート能力を持っていることが多い。
しかし、私はただのOLで、この世界で使えそうな能力も知識もない。
もしも帰れなかったら、クライヴに頼み込んで暫くの間泊めてもらえないだろうか。
もしくは、どこか近くで仕事を紹介してもらえたりしないだろうか。
そんなことをとめどなく考えながら、この日は眠りについた。