表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/61

余韻

「兄様はどこ?」


赤い髪の少年が尋ねてくる。

おそらく、アラステア皇太子だろう。


返答に困っていると、アラステア皇太子はブレンが飛び降りた窓の方へと近づき、外を見た。

私も外を見てみるが、既にブレンの姿は見えず、クライヴも逃げた後のようだった。


「もう、行ってしまわれたのですね」


アラステア皇太子は伏し目がちにそう言うと、胸に付いているブローチに手を当てた。

赤い宝石があしらわれたブローチは、よく見るとブレンが持っていたものとおなじデザインだ。


「そのブローチ……」

「これ、兄様とお揃いなんです。去年、兄様が誕生日にプレゼントしてくれました。離れていても、これがあればいつでもお互いを思い出せるねって」


ブレンはブローチを外すのを忘れていた、と言っていた。

だが、よく思い出すと、ブレンの服装は質素なもので、いつもの服から付け替えたとしか思えなかった。

兄弟でお揃いのブローチを、本当は持っていきたかったのかもしれない。


「お姉さんは、兄様がどこへ行ったのか知っていますか?」

「ごめんね。どこへ行ったのかは、お姉さんも知らないの」

「そうですか」


残念そうにつぶやきながらも、どこか納得しているような表情をしていた。

もしかしたら、ブレンが逃げようとしていることを、感じとっていたのかもしれない。


そうこうしているうちに、外が騒がしくなってきた。

衛兵達がクライヴを探しているのだろう。

私の顔も何人かの衛兵に見られている。

早くこの城から脱出しないと、危険だ。


「この辺りは確認したか!?」

「まだだ!俺はあっちの部屋を見てくるから、確認を頼む!!」


声が大きくなってきた。

直にこの部屋にも衛兵が来るだろう。


「君、ここから抜け出す道とか知ってる?もしくは、隠れられるところとか」


試しに、アラステア皇太子に聞いてみる。

アラステア皇太子は首を縦に振ったあと、私の手を掴み、歩き出した。


「ここ、今は使われていない倉庫で、兄様とよく遊んだ場所なんです。よく、かくれんぼをしたから、見つかりにくい場所は知っています」


促されて歩いた先には、古びたクローゼットが置いてあった。

……いつものパターンだ。

ここまでくると笑ってしまう。


しゃがんで、アラステア皇太子に目線を合わせる。

両手でアラステア皇太子の手を握ろうとして、クライヴの制服の切れ端を握り続けていたことに気がついた。


「それ、もらってもいいですか?」

「え?これ、お兄さんのじゃないよ?」

「いいんです。これを見たら、今日のことを忘れないでいられる気がするので」


私にとっては必要なものではないので、制服の切れ端を渡す。

あらためてアラステア皇太子の両手を握って、目を見る。


「お兄さんに、もう一度会えるといいね」

「うん」

「未来で、また会おう。その時は、一緒にお兄さんを探しに行こうね」


そろそろ行かないと本当にマズイ。

ゆっくりと立ち上がり、ポケットに入っている便箋の残りをさらに半分に切った。


「制服の切れ端と一緒に、この紙も持ってて。そしたら、きっとまた会えるから」


クローゼットの扉を開けて、中に入る。

渡した紙を捨てずに持ち続けてくれれば、すぐにまた会えるだろう。


前回会った時には、私のことを忘れていたようだった。

さぁ、どうすれば私のことを思い出してくれるだろうか。


そんなことを考えながら、再び扉を開けたーー


ーーーー


「ブレスレット、よかったのですか?」


イレインは、ブレンを小脇に抱えたま走っていた。

雨が降り出しており、少し肌寒い。


「いいんだ。あれがあると、帰りたくなってしまうから」


そう呟く姿は、普通の少年に見える。

まるで、何も知らない子供を騙して誘拐しているような気分だ。


「身代わりにした少年の家に、十分なお金は渡してあるよね?」

「もちろんです。あのまま奴隷になるよりは、よい人生だったでしょう」

「ははっ、死んだのに良い人生って……」

「痛みなく、いけましたので」

「でも、顔がわからないくらい潰したんだろう?」

「死んだ後に処理したので、大丈夫です」


全て、ブレンが望んだことだ。

それなのに、悲しそうな、寂しそうな、なんとも言えない表情をしている姿に心が痛む。


「お姉さんには、また会える気がするなぁ」


そうポツリと呟いたあと、ブレンは目を閉じ、静かになった。

ザァザァという雨の音だけが、辺りに鳴り響いているーー

2章終了です。

3日程休んでから、また投稿を再開します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ