全ての始まりはクローゼットから
「いいから!ここに入ってろって!!」
同棲中の彼氏が、イライラしながら私をクローゼットに押し込んでくる。
何故こんなことになったのかーーーただ、自分の家で寛いでいただけなのに!
時は1時間前に遡る
今日はいわゆる華金。
ワインとチーズを用意して、引っ越したばっかりの家で彼氏と晩酌をしていた。
下野愛奈、30歳。なんの特徴もない、普通のOL。
28歳の時に知り合った、1つ年下の彼氏がいる。
どうにもパッとしない彼氏だが、この人と結婚をしないと、確実に婚期を逃してしまう。
その焦りから、まずは同棲しようと持ちかけた。
最初は渋っていたものの、私の方が家賃を多く払うからと説得。
1LDKの、1人で住むにはちょっと広く、2人で住むにはちょっと狭いかな、といった大きさの部屋に、先月引っ越してきたのだった。
やっと全てのダンボールを開封し終え、久しぶりにゆっくりとした時間を楽しんでいた。
そんな時に、突然インターホンが鳴る。
こんな時間になんだろう、と画面を見ると、知らない女性が立っていた。
「誰だろう?……誰かわかる?」
そう聞きながら振り向くと、顔を青くした彼氏が立ち尽くしていた。
あぁ、浮気か
彼の顔を見て、一瞬で理解した。
引っ越してきて、まだひと月だというのに、この家に見知らぬ女を招き入れたのか?
この女と、この家で、どこまで、何をしたのか?
様々な考えが頭の中を巡る。
「ねぇ、この女の人、誰なの?」
怒りを滲ませた声で質問する。
明らかに挙動不審な彼氏を睨みつけながら、さらに問いただそうとした時だった。
「ごめんっ!今出るからちょっと待ってて!!」
彼氏が駆け足でインターホンに近づき、見知らぬ女に応答した。
「なっ!この人を家にあげるの!?今から!?」
「大丈夫!後で説明するから!」
「大丈夫じゃないよ!だいたい、私パジャマだよ!?さすがにこの格好じゃ、知らない人に会えないよ」
「うん。だから、まずは着替えよう」
訳が分からず、彼氏の促すままに、寝室にあるクローゼットへと向かう。
さすがに、この展開は想定していなかった。
これから修羅場なのか?私はこの浮気男を許せるのか?
そんなことを考えていたら、突然、強い力で腕を掴まれた。
「ちょっと!何するの!?」
「悪いけど、この中に入ってて」
ぐいぐいと、そんなに広くもないクローゼットに、体を押し込まれる。
「痛いって!やめてよ!!」
「いいから!ここに入ってろって!!」
ドンッ、という音と共に扉が閉まる。
ーーー頭が痛い。
あぁ。今の音は、私の頭と壁がぶつかった音だったのか。
なんて、他人事の様に考えながら、私は意識を失った。
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