表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メイブリースの聖杖  作者: 秋津冴
第三章 王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/43

第十一話

 そして、私はミザリーの外観を持つ生徒について、まったく見識がなかった。

 この学院にもう五年以上通っているというのに。


「そうかもね。でも、あなたがどうしてここに入れたかが、私には謎なのだけれど」

「は?」

「私はこの学院に数年間通っているけれど、どこの学年でも科目でもあなたのような‥‥‥目立つ外観をしている生徒がいれば、一目で判断がつきます。でも‥‥‥」

「君は、彼女を知らない」

「あんたには聞いてないわよ!」


 私達の間に、紳士が割って入ってきた。

 もうこれ以上、関わって欲しくないのに、彼は好奇心旺盛な瞳でこちらをじろじろと見ては、あちらをじっと観察するかのように見据えて、それから言った。

 ああ、偽物か、と。


「染めているな」

「なんですって!」

「いや、染めているだろう。髪の色素を変更したのか。それは危険な魔法薬を飲んだと見える。後遺症が無ければいいがな‥‥‥例えば、今ある髪以上には生えてこないとか、な」

「ひっ? そんなっ! 殿下はそんなこと一言も――ッ」


 と叫ぶと、ミザリーは自分の腰まである銀髪を両腕で抱き寄せるようにして確認する。

 その手が後頭部の生え際をなぞった数秒間で、あちらの連携が崩れてきたような気がした。


「身分を偽れば死刑‥‥‥まあ、あの場ではそんな発言はなかったな。これは除外、と。しかし、魔法、その他の特殊な技法によって外観を変え、誰かを騙そうとする行為は、どうだったか。それも王族と連携してこちらのアイナ侯女様をあざむいた罪は――死罪に相当するかもな」

「嘘っ、待って! そんなこと――これは殿下にこうすればいいと命じられただけで‥‥‥」

 

 と、怯えた声でミザリーは両手を後頭部に当てたまま、その場にしゃがみこんでしまった。


 この程度のショックで殿下の側に侍ろうなんて、甘い女性。

 これまで彼の暴力にさんざんなじられた身としては、こんな仕打ちはまだまだ序の口に思えた。

 

「彼女はそう言っているが、お仲間はどうなんだ? 処刑台に一緒にのぼりたいのか? 実家は当然、取りつぶしになるだろうなあ」

「あ、いや。俺たちはそんなことまで考えていない」

「そうだ、巻き添えはごめんだぞ!」

「違うっ、俺はただ手伝ってくれって、そう言われただけなんだ!」


 などと、今度は取り巻きたちが右往左往を始めてしまい、誰かが逃げるようにして走り去ると、多くはそれに従って消えてしまった。


「おいおい。もう少しこう‥‥‥仲間意識とかいうものはないのか? 女を置き去りにしていくなんて。おい、待てよ」

「なんだよっ! 関係ないって言ってるだろ?」

「忘れ物だ。持って帰れ。銀色の彼女がいるだろうが」

「あ、ああ……」


 自分の横手を走り抜けようとした取り巻きの一人の襟首をわっし、と掴んだ紳士はミザリーも連れて消えろと彼に命じる。

 後には私と紳士と、様子を見てから馬車を出してきた御者だけが取り残された。


「行こうか? 門の向こう側までは乗せてくれるんだろう?」

「え‥‥‥ええ。はい‥‥‥」


 トラブルから解放されたという安堵と、危機的状況に遭遇した際の、彼の行動があまりにも手慣れているのに驚いた私は、そう頷くしかできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ