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メイブリースの聖杖  作者: 秋津冴
第三章 王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。

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第六話

 ちょっと混乱してしまって、頭の整理が追いつかない。

 彼は女子にしては長身であるはずの私を抱き上げてもなお、体力には余力があるらしく、もう数百メートルは走ったかというのに、その速度は緩まるどころか、まだまだどこまでも駆けていけそうだった。


「あの、待って! 降ろして、降ろしてください!」


 さすがにこのままおんぶにだっこというのも申し訳がない。

 それになにより、学院の中は人目があるのだ。

 彼は理解しているのか、していないのか、わざと人目が多い道を選んで走っているように思えてならない。

 さすがに恥ずかしいので、降ろしてくれるようにお願いしてみたら、あっさりとそれは叶えられた。


「おや。もう歩けるなら、そうして貰おうか」

「歩けます! 歩けますから‥‥‥お願いです、こんな恥ずかしい‥‥‥」


 彼が逃げ込んだ先は、校舎から遠く離れた出入り口がある方向で、まるでこの広すぎる建物の中を熟知しているかのような、そんな行動だった。

 彼にそっと、宝物でも置くようにして地面に立たせてもらう。

 それだけでも、頬が赤く染まっていくのを感じた。


「済まなかったな。余計な手出しだったか」

「はい。‥‥‥いいえ、でも」

 

 どう答えていいか分からない。

 自分の中ではあの場から逃げるべきではなかったのだと声がする。

 王族に手を出したのだ。

 せめて、私が逮捕されることで、家族や一族に責任の追求は免れるかもしれない。

 そんなことを思って明確な返事をできないでいると、彼は「まあ大丈夫だろう」とこともなげに言った。


「大丈夫? それはあなたが大丈夫だということではないですか? この国で、あの殿下に手を挙げて、無事に済んだ者などいないのに」

「まるで責めるように言うのだな」

「……すいません。でも、これで私だけの問題ではなくなりました」


 家族の顔が脳裏を流れていった。

 年の離れた幼い弟と双子の姉妹たち。

 年老いた父に、新しく嫁いできた継母との仲はそこそこ、良好だった。

 彼らには、期待しているといつも言われてきた。

 弟などは「お姉様、とうとう王族になられるのですね、おめでとうございます」とまで、言ってくれたのだ。

 その気持ちをあっさりと裏切るのも、心苦しいものがあった。


「あなただけの問題ではない、か。国王陛下は何をなされている。二番目の息子があんなだめなままでは、安心して王位を譲ることもできないだろう?」

「陛下は‥‥‥」

 

 思い出すだけで、悲しみが胸を満たしていく。

 陛下が健在だったころは、まだ私も暴力など振るわれず、幸せだったのに。


「陛下は、どうした」

「国王陛下は、二年前から病床に伏せっておられます。一般には知らせておりませんが‥‥‥そう、殿下が申しておりました」

「あー……外交で時折、訪れても所要で忙しいと断られるのはそのせいか。なるほど」

「外交!?」


 はっとして、上を向く。

 そこには、紅の瞳が申し訳なさそうに私を見下ろしていた。

 国家機密に相当することを、漏らしてしまった。

 他国の人間‥‥‥それも、外交にあたる要人にそんなことを語ってしまうなんて。

 己の愚かさに嫌気が差した。

 これでも、王太子妃補。

 冷静であったなら、こんな発言はしなかったのに。

 いまは動揺して焦ってしまい、善悪の判断がつかないようになっている己がうらめしかった。


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