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メイブリースの聖杖  作者: 秋津冴
第三章 王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。

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第二話

 しかし、このときは他に優先することがあったのか、顔に現れていた不機嫌さは、すっと消えてしまった。

 貴公子の仮面の下には、冷酷非道なサディストが潜んでいるというのに。

 そのことをまだ知らないあの新しい女に、少しだけ同情してしまうほどだった。


「まあ、いい。その話はこの場が終わった後にしよう。まだ学院の授業も終わっていない。いまは昼休みだしな。また今夜だ、アイナ。それで、彼女を改めて紹介しておこう。」

「ミザリーでございます、アイナ様。お初にお目にかかります。今後もよろしくお願いします」


 スカートの裾をおり、中腰になって軽くしゃがみ込む。

 この場に立つにふさわしい淑女としての、最低限のマナーは心得ているように見えた。

 それならば、貴族の子女かと思い、あいさつ代わりに質問する。


「レイダー侯爵令嬢アイナ、です。ミザリー‥‥‥様は、どちらのご家族の方かしら?」

「は? どちらかって、どういう意味?」

「ですから、どちらの御家門。どちらの貴族様の御令嬢かと、そう質問しております」

「……ただの、ミザリーです。家名はございません」


 周囲から失笑が漏れた。

 それを聞いて、ただでさえ屈辱に顔を赤く染めた彼女は、さらに浅黒く顔色を変化させる。

 面白い物笑いのネタができたと、同級生たちが小声で言っているのも、私の耳に飛び込んでくる。

 そちらをにらんで黙らせる。

 でも、ミザリーの機嫌は最高に悪かった。


「殿下! 馬鹿にされました!」

「ミザリー、ああ僕のミザリー。済まなかった、あんなに気が利かない女だと思わなかったのだ」

「悔しいですっ。どうにかしてください!」


 周囲の在校生は、愚かしくも可愛らしいミザリーに苦笑を浮かべるしか出来なかった。

 ここは学院。

 王国内外の貴族子弟子女や王族、有力商人の子供たちや、学者の一族の子弟たちなど。

 家名を持ち、家柄が悪くない出自のものばかりが、集う場所だ。

 だから、質問してみたのだけれど。


「アイナ、彼女に恥をかかせたな! なんて、冷酷非道な女なんだ!」

「どういうこと? いきなりやってきて、当たり前の挨拶を交わしたのに‥‥‥」

「黙れ! この爬虫類のような女め!」


 と、殿下の罵りが、私たちが会話をしている学院の建物の中央に位置する、大ホールの吹き抜けへと消えていく。


「申し訳ございません‥‥‥てっきり、どこかの貴族令嬢かと思いましたので‥‥‥」

「ひどいっ、そんな、二度もいって辱めるなんて!」


 そう言うと、ミザリーの顔に屈辱の色が浮かんだように見えた。 

 礼儀作法からしても、喋り方からしても、どこか裕福な商人か、それとも学者の一族の娘か、貴族令嬢だと思ったのだけれども。

 どうやら、そうではないようだった。



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