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メイブリースの聖杖  作者: 秋津冴
第一章 本日は、絶好の婚約破棄日和です!

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最愛の男性の選び方

 アレクセイはラスティンの終わりを見てきたらしい。

 あの人の、顛末を簡単に語ってくれた。


「王都であいつの最期を看取って来た。いや、死んだわけではなく、幽閉されるときの様を忘れられなくてな」

「趣味が悪いわ。囚人の最後を語るみたいなこと」

「伝えておきたかったんだ。あいつの最後と最愛の女性を俺が奪った謝罪も兼ねて」

「最愛の女性? 彼の最愛の女性は、どこかのご婦人ではなかったかしら」

「いや違うだろ。あいつにとって最後にはそうではなかったけれど、ある時まではそうだったはずの女性が今、俺の目の前にいる」


 そうだろ? とアレクセイは赤ん坊のような無邪気な微笑みをこちらに向けてきた。

 それはそうかもしれない。

 ある時まではそうだったかも?

 いやいや、そんなことはない。ラスティオルの口の汚さと素行の悪さには、出会った最初の頃から嫌気がさしていた。

 彼のことを愛してるなんて、思ったことはなかったかも‥‥‥。


「ラスティンは、どんな様子でしたか」

「気になる? そうだな‥‥‥負けを認めた、そんな感じはどこにもなかった。まだ試合は終わっていない。必ずどこかで再起して、復讐を成し遂げてやる。そんな顔していた」

「やっぱり」

「なんだ、あなたもそう思っていたのか」

「あの人はどこまでも意地汚い人だから。諦めるということを知らないの」

「だけど俺は諦めさせる。王位継承権も、王族に復帰することも、あなたのこともだ」

「最後の一言をどう受け止めていいかわからないわ‥‥‥」


 自信満々に言うわけでもなく。

 この二週間の間にあちらこちらと、方々に全力を注いで働きかけた結果だろう。

 アレクセイは記憶の中にある面影よりも、ずっとやつれてしまっていた。

 食事も満足に取れなかったのかもしれない。

 随分と痩せていて、健康であるようには見えなかった。


「俺がここに招いたんだ。無理やり国を作らせた。生涯をかけてあなたの事を守ると誓いたい」

「……国だけなんだ」

「何?」

「いいえ。何でもありません」


 けれどもその紅の瞳には確固たる強い意志が宿っていた。 

 不正を許さないという意思。弱気を助けたいというやるせなさ、そして、国への愛がそこにあるように見えた。

 私に対する愛情も、ほんの少しばかり注いでもらいたい。

 なんてことを願ってしまう私は、多分、悪い女だ。

 そんな自分に嫌気がさして、顔が曇っていたらしい。

 アレクセイは、改めて言葉足らずだった、と言い直してくれた。


「……聖女様。いや、マルゴット‥‥‥」

「なんですか。そんな名前で呼ばれるような仲ではありません。私、単なる聖教国の盟主ですから‥‥‥」

「いや違う。それは俺が押し付けたものだ。そうじゃなくて、なんだ。ああ、面倒くさい」

「めんどくさいってってどういう意味?」

「君の前だと本音が出ないんだ。すまない、面倒くさいといったことは悪かった謝る。俺の側で、この国を。俺たち二人で新しい人生を歩んで欲しい。この場所で、俺の大切な家族になってほしい」

「まあ……あなた、いきなりすぎです!」

「辺境ではこれが普通だ。中央の礼儀は知らん!」


 そう言われてしまったら、受け入れるしかないじゃない。

 私はもう中央には戻る気がないのだから。

 彼の理不尽な言い分に、何と言って抵抗してやろうかと思いを巡らせてみたけれど。

 それはどう考えても、「はい」と答えるしかないのじゃない、マルゴット?

 と、自分自身の心の声に説得されるしかなくて。


「……卑怯だわ。あんまりだわ、こんな不意打ちばっかり」

「だめ、か? おい?」


 どうにかそれだけ吐き出すと、彼は驚きのあまり泣き出しそうな顔をして拒絶をしないでくれとこちらをじっと見つめてくる。

 いつも半分ほど閉じられているその瞳は、今は最大限に開かれていて。

 ああ、この人は一重なんだと改めて理解する。

 だけどここではい、と言ってしまったら。

 この先、なにもかもが彼の思惑通りに進みそうで、こちらとしては面白くない。

 せめて最大限の譲歩というか。

 私にとって有利な条件を考えつくまでは、まずは友人として始めた方が良さそうだし。


「家族になってもいいけれど。本当のあなたを見つけるまで、もう少し待ってくれなきゃ嫌だわ」

「あー……。それは確かにそうだな。わかったそれで手を打とう」

「交渉してるわけじゃないんだから。せめて今夜から、紳士として振る舞っていただきたいものです」

「……努力する」

「辺境のマナーなんて知りませんから」

「君の理解を得れるように、行動することを誓う」

「あなたの好き勝手に物事を動かすのもダメ。私にきちんと相談してから行動してください」

「まるで尻に敷かれてるみたいだ」

「文句があるんだったら、この話は終わりです」

「待て! わかった、言う通りにする。するから‥‥‥な?」


 慌てふためいている彼に、まずは胸元の紳士らしくないボタンの開け方を指摘したら「これが閉まってると窮屈なんだよなー」とかぼやきながら、きちんと閉じてくれた。

 年上の男性の扱いは、そんなに簡単なものではないかもしれないけれど。

 とりあえず、ラスティオルよりアレクセイの方が、私に対する愛情を感じさせてくれる。

 今はそのことに満足して、彼との食事を楽しむことにした。

 女神様、私のわがままをどうかお許しください、でも最高の男性を与えて欲しいです。

 そんなことを願ってみたら、夜空に静かに流れる雲の隙間から、許可を与えるように数条の紫電が飛びかっては消えた。

 多分、お許しは出たのだろう。

 この日から、半年後。

 私は、彼のプロポーズを受けることにした。

 


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