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「美味い! これは美味いぞ!」
「お、お父さん…」
それを見てメロディアはニヤッと笑う。そして配膳台からとてもよく冷えた一本の瓶ビールを取り出す。
「シャニス様。こちらもいかがですか?」
「おお! 若いの、分かってるじゃないか」
「ありがとうございます。でも僕がお酌をするのは恐れ多いので…ヤタムさん。お願いできますか?」
「ふぇ?」
ただ事の成り行きを見守っていただけのヤタムは不意に名前を呼ばれて、どこから出したのか分からない声を出した。そしてメロディアに手を引かれると、言われるがままにビール瓶を持たされシャニスに酌をさせられた。
すると在りし日の思い出が彼女の中に思い返される。父は半年に一、二度しか訪れることはなかったが、家にいる時はこうして楽しそうにご飯を食べてお酒を飲んでいた。
ヤタムは母の庶民的な料理を満面の笑みで食べるシャニスの事が本当に好きだった。ヤタムたちといる間のシャニスは、ひょっとしたら貴族というのは嘘なのではないかと思えるほど、愉快で砕けた男だったのだ。
「それにしてもいい味だ。クウカが作ったのか?」
「いえ、こちらのメロディア…え?」
分かりやすく固まったヤタムは焦燥の色を抑えられず、慌ててシャニスにもう一度確認した。
「待って、パパ。今、ママの名前を…?」
「違うのか? この味はクウカの作った焼きうどんだと思ったんだが。ひょっとしてヤタムが作ってくれたのか?」
「…」
記憶が戻っている。その事実に気が付いただけでヤタムは今までの全てが報われたような、そんな気分になってしまった。
そして感傷的な気分になり、色々と考えを改めさせられているのは五人の子供たちも一緒だった。言葉を失って、一体どうすべきかを全員があれこれと思案している。
ここでもやはり彼らを動かすことができたのはメロディアだけだ。
「皆さん」
「え?」
「いっぱい作ったので、モノの試しに召し上がってはみませんか?」
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