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ドロマーは顔に影を落とした。それだけの事なのに怖さよりも美しさが際立ってしまい、メロディアはつい息を呑んだ。
「その前に私達の事はどのように伝えられているんですか?」
「…お伝えしたように【八英女】は魔王との戦いで戦死したと」
「誰がそのような事を?」
「父です…」
「ふふ。まあ当然でしょうね。スコアだけが魔界から無事に帰還できた上、あの人にとっては消し去りたい過去なのでしょうから」
何やら含みのある言い方だと、メロディアは感じた。しかしそれも次に語られた事実の驚きで吹き飛んでしまった。
「【八英女】は少なくともあと六人は生きています。私はその六人と共に魔界にいました」
「! では、なぜ今になって…?」
「封印されていたのです」
「封印…」
そう聞かされてメロディアの頭の中に様々な予想が展開される。
恐らく魔王によって封印され勇者パーティの戦力を分散させられたのだろう。もしかしたら、それを父に仲間は死んだと偽って伝えていたのかも知れない。もし生きていたと知っていたなら父は再び魔界に赴き、仲間たちを救い出すために動いていたはずだ。そうしなかったという事は、少なくとも父は【八英女】が魔王の手に掛かって殺害されたと思い込んでいるのではないだろうか。
「魔王がそんな姑息な手を使ってきたのですか」
メロディアは手を握りしめる。すると勝手に手が震えた。
しかしドロマーが急に笑い出し、沸いた義憤のような感情もすぐに忘れてしまった。
「ふふふふふ」
最初は可愛らしいと思った笑い声が、今ではやけに不気味に聞こえる。彼女の中に何やら黒い感情が満たされていくような感覚を持った。
「違いますよ。封印は魔王様ではなく、あなたの父親である勇者スコアにされたんです」
「え?」
それはどういう事ですか…と尋ねようとした矢先。メロディアは息を呑んだ。突如として夥しいほどの殺気を浴びせられたのが原因だ。反応したが、それは一歩及ばない。メロディアの身体は床から突如として飛び出してきた触手に絡めとられて、椅子ごと縛り付けられてしまった。
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