3-29
「いやアンタ、何考えてんの?」
「だってせっかく作ったのに勿体ないじゃないですか。皆さん、お腹空いているでしょう?」
「今、食事とか会食がどうとか言ってる場合じゃないのは見たらわかるでしょ!?」
「ヤタムさんこそ、見たらわかるでしょ? シャニス様は大分お腹空いてますよ」
「だからって…」
そこまで話すとメロディアはスタスタとシャニスのところへ料理を運びに行ってしまった。まるで掴みどころのない性格にヤタムはすっかり毒気を抜かれる思いだ。
メロディアは決してペースを崩さない。部屋に入ってきた段階から、既に全員が彼に知らない内に飲み込まれている。
「はい、どうぞ。お待たせしました」
そう言って差し出された料理はシャニスと彼に近寄っていた五人の子供たちにしか見えなかった。こんな状況になっても…いや、だからこそ。エンカ皇国の情緒を感じさせるような気品溢れる懐石料理を期待していた。
だが実際に出された料理は気品らしさとは程遠いようなみすぼらしい料理だったのだ。
「な、なんですか。この料理は!?」
次兄のマズナイは自分でもビックリするほどの大声でメロディアを叱咤する。
「焼きうどんです」
「や、ヤ、ヤキウドン??」
見たことも聞いた事もない料理に五人の子供らは茫然とすべきか、怒りを露わにすべきか判断しかねた。しかし、その中でヤタムだけが衝撃的な表情を惜しみなくメロディアに向けている。
「はい。エンカ皇国の庶民料理です。シャニス様が喜ぶと思いまして」
「バカな! こんな粗末な料理を喜ぶわけがないだろう!」
「そうですわ! エンカ皇国の料理なら懐石料理や本膳料理を出すなら分かりますけど」
「いやいや、この状況を見てくださいよ。とても懐石料理なんて楽しめる雰囲気じゃないでしょう?」
「き、君がそれを言うのかね!?」
するとその時、誰かが素早く動いたのを全員が目の端で捉えた。見ればシャニスが箸を取り、満面の笑みで焼きうどんを頬張っていた。
読んで頂きありがとうございます。
感想、レビュー、評価、ブックマークなどしてもらえると嬉しいです!




