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ドロマーが何をどう伝えたのかはメロディアの知るところではなかったが、それでも人から聞いたタナボタのような情報でここまで得意げになれるヒカサイマに妙な感動を覚えていた。
「そして今朝に報告があった。お父様は心身ともにかなり落ち込んでいらっしゃる。しかも侍女の経歴に怪しい所もあるとね」
「怪しい所?」
「兄上、姉上。十年ほど前、お父様が後妻を当家に迎えたいと言い出したのを覚えておいでですか?」
「後妻…?」
その言葉に四人の兄姉はハッとした。そしてメロディア達がいる事も忘れて声を荒げて言った。
「お父さんの妾か!」
「確かエンカ皇国の庶民だと言ったか…」
「そうです。当時の僕はまだ子供だったので噂話のような内容しか知りませんでしたが、兄上や親類たちが大層な反対をされたそうで」
「…」
身に覚えがある、と言わんばかりの反応だ。
尤もローナ家ほどの名門貴族の主が庶民と不倫をして、あまつさえ後妻として迎え入れるともなれば体裁や世間体を気にする親族が口を挟んでくるのは想像に難くない。
「…覚えているさ。あの時のお父さんの落ち込み様といったら…」
「お母さんが亡くなった時以上だったかもしれない」
「滅多な事をいうものじゃない!」
「しかし兄さん。あれからお父さんが落ち込んで隠居を決めたのも事実ではないですか」
「…」
思うところがあり口をつぐんでしまう兄姉たちをよそ目に、ヒカサイマはフフフという含み笑いをしながら言葉を続ける。
「まあ、それは前置きです。考えて頂きたいのは我らの都合ではなく、後妻入りを断られた向こうの事。庶民が貴族の家に嫁ぐとなっては喜びも一入でしょう。しかしそれが向こうの都合で勝手に断られたとなれば、恨むなという方が無理からぬ話とは思いませんか?」
そうしてさも意味深にヤタムを呼んだ。
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