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「さてと」
無事にヤタムの夢の中に侵入が叶ったメロディアはまず一言そう呟いた。普通の夢魔であればここで術を使い、淫猥な夢の一つでも見せるだろうがメロディアにそのような意図はまるでない。
「すみませんが、ちらっと記憶を見せてもらいます」
メロディアはその場に跪いて意識を集中させた。掌から放たれたかすかな魔力が波紋状に広がっていく。すると彼の脳裏に断片的な記憶の数々がフラッシュ点滅しながら流れ込んでくる。
そうして記憶を覗き終えたメロディアは思わず言葉を失ってしまう
「ッ…」
それはとても陰鬱な記憶だった。
押し寄せてくる記憶を見るに現当主のシャニスは彼女の母親に当たる人物と不倫の関係にあったらしい。いや、シャニスの立場を思うに愛人や妾といったような存在か。いずれにしても公になってはいけない相手には違いない。
そんな二人の間に生まれたヤタムは子供の頃から日陰の中を歩むような人生を送ってきた。そしてそんな人生の中で彼女は鬱屈した感情を抱くようになってしまっていた。
ヤタムはこのローナ家に復讐するためにやってきたのだ。彼女はこの家の没落を望み、画策している…。
一体、何をするつもりなのか。更に深く潜ってそれを探ろうとした時、夢の中の世界の輪郭が大きくゆがんだ。
「マズい、眠りが浅かったか? それとも力を入れ過ぎたかな」
どの道さっさと退却しないと面倒なことになってしまう。
必要最低限の情報を得た後、メロディアはいの一番で彼女の夢の中から飛び出した。そして安らかな寝顔とは裏腹に心の深奥にどす黒い感情を抱いている彼女の事を不憫に思いながら、一端はその場を去ったのだった。
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