3-8
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その頃、ヤタムは必死に頭を下げて五人を宥めつつ一時本館に戻ってもらうように説得していた。しかし一度ヒートアップした口論は中々に収まってはくれなかった。
「だから、一度父に会えれば良いと言っているのに、何故会わせないんだ?」
「シャニス様が明日までお会いになりたくないと…」
「明日会うつもりがあるのに、何故今日会えない? 留守や病気ならいざ知らず」
「それは…私には分かりかねます」
「だからヤタムさんではなく、お父様に直接お伺いしますわ」
「そう申されましても…」
困り果てたヤタムは圧に負けて後ずさる。それに付け入るかのように五人は離れに乗り込もうとした。
しかし風のように優雅に割って入る者がいた。父母譲りの才覚と戦いの中で培った華麗な足運びは戦闘のセの字も知らないような貴族風情にはまるで悟られない。唯一、気が付くことができたのは同じレベルの戦闘を熟してきたドロマーだけである。
「おや」
メロディアは涼しげなシャーベットの乗った器をずいっと差し出し、その腕で無理に進行を止めた。目の前に急にそんなものが飛び出してきたものだから、先頭にいたヒカサイマは短い悲鳴を上げて尻もちをついたのだった。
「氷菓子をお持ちしました。丁度あちらのベンチが日陰になっているので、お召し上がりになりませんか?」
「な、何だ君は…? 一体どこから?」
「明日の誕生会で料理を作らせて頂くシェフの弟子でメロディアと申します。先生からこちらを皆様に振る舞うように申し付けられて参りました。是非ともお召し上がりくださいませ」
突然の事にすっかり毒気を抜かれてしまった一同は、困惑を見せつつもメロディアのペースに乗せられて離れの脇にあったベンチに座った。するとタイミングよく木陰を涼しげな風が通る。汗ばんでいた体にはさぞ心地よい事だろう。
しかしドロマーは見逃さなかった。この風はメロディアが魔法で吹かせたという事を。
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