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やがて離れをぐるりと一周しての一通り説明が終わると、三人は再び厨房へと戻ってきた。ところでメロディアはこの離れについてから妙な気配を感じていたのだが、屋敷の中を見ている内にその正体不明の疑念をより募らせていた。
「大まかな内容は以上でございます。何か説明の足りぬ箇所はございましたか?」
「いえ。今の段階では大丈夫ですが…もし何かをお聞きしたくなったらどうすれば?」
「使用人の部屋に内線でのお電話を頂ければ。繋がらない場合、私は旦那様のお傍に仕えるか、屋敷内の雑務のどちらかを行っております。もしくはお二人をご案内したクナツシにお尋ねくださればと思います」
「分かりました」
「それと、もう一つご留意頂きたい事がございます」
「何でしょうか?」
「旦那様のお料理は見た目は他の方と変えずに、とにかく柔らかく噛み切れるように細工をお願いいたします」
メロディアとレイディアントはピクリと反応した。シャニスの年齢を考えればそのような要望があったとしてもまるで不思議ではない。二人が違和感を覚えたのはそう告げてきたヤタムが一瞬だけ悪意を匂わせたからだった。
しかし相手に悟られないようにメロディアは笑顔で返事を返す。
「承知しました。塩分やカロリー計算などはよろしいのですか?」
「はい。そちらは結構でございます。実を申しますと旦那様はお子様方に老いを見せるのを大変に嫌っておいでです。なのでレイディアント様におかれましても、お子様たちに旦那様はいまだ明朗であると証明できるような心配りをお願いしたく存じます」
懇ろな一礼の後、ヤタムは厨房を後にした。
残されたメロディアとレイディアントの二人は適当に腰を掛け、自由に使っていいと言われたポットでお茶を入れて小休止を入れた。妙な気配の真相は未だに見えないが、少なくとも料理を作らなければならないという事実だけは変わらないのだ。
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