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クナツシは東屋まで二人を案内すると、たおやかにティーカップを傾ける男に声を掛けた。
「旦那様。ヒカサイマ様からご紹介のあった料理人をご案内いたしました」
「おお。来たか!」
老齢の男はそれまでの優雅さが嘘のように轟々たる声で出迎えてきた。
「ご紹介いたします。当家の主人であらせられるシャニス様でございます」
「ヒカサイマから聞いとるよ。若いが腕の立つ料理人だそうで」
「恐縮です」
「アレは中々の遊び人だが、だからこそ色々と人脈があってな。我が家のコックが病で倒れたと聞いた時はどうしようかと思ったが、すんなりと助っ人が見つかって何よりだ」
メロディアは少し当惑していた。ヒカサイマの一件があったせいで、彼の父親も輪をかけて権力を笠に着るような輩なのだろうと勝手な想像をしていた。こんな明朗快活な人物が出てくるとは思いもよらなかったのだ。
「しかも聞く所によると【八英女】の一人、あのレイディアントと同じ名前だそうで。実に縁起がいい。期待していますよ」
「最善を尽くします。それと今回、弟子のメロディアを同行させることをご容赦ください」
「うむ。ワシの誕生祝に最高の料理を作ってもらえれば後はお任せしますよ。詳しい事は全てメイドのヤタムと執事の…執事の」
シャニスは言いよどんだ。というよりも明らかに名前を思い出せないという様子だ。
「クナツシでございます。旦那様」
「そう、クナツシだ。この二人に聞いて万全の準備をしてもらいたい。よろしく頼みましたよ」
「承知いたしました」
二人は挨拶が終わるとクナツシが御用係として場に残り、代わりにメイドのヤタムによって厨房へと案内された。
厨房はこじんまりとしていながらも高級な木材や石材がふんだんに使われており、更に隅の隅にまで掃除が行き届いている。それだけで普段から気を配った料理が作られていることが窺い知れる。メロディアはドロマーの毒牙にかかった前任の名も知らぬコックに改めて同情と謝罪の念を送った。
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