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それから五分も経たずして。
レイディアントは次はうなされることなく自然に目を覚ました。
「…お早うございます」
メロディアはそんな彼女に気まずそうに挨拶をした。できることなら部屋で暴れて自分に完膚なきまでにのされた事は置いておいても、幼児退行して甘々になった上に粗相をしてしまった事は忘れていてほしいと願った。
しかしレイディアントはメロディアの顔を見るなり、
「…あ……うう」
と、目に見えて狼狽し火をつけたように赤面してしまった。誰がどう見てもさっきまでどうなっていたのか、完全に覚えている人間の反応だった。
しかし、こうなってしまっては仕方がないとメロディアは色々と諦めと覚悟を以て会話を切り出した。
「レイディアントさん」
「…」
「好きな食べ物はなんですか?」
「え?」
何の脈絡もない会話にレイディアントはつい気を抜いた返事をしてしまう。メロディアは構わず言葉を続ける。
「さっきまでの事はお互い交通事故みたいなものです。なので一度リセットしませんか?」
「…」
「お願いします。あなたと話がしてみたいですし、僕の話も聞いてもらいたいんです」
メロディアは必死になって訴え、そして頭を下げた。彼がここまでするのには訳がある。凶暴な側面しか見ていないが、メロディアはレイディアントの内側にまだ穢されていない情念がある気がしてならないのだ。
要するに言葉とは裏腹に、まだ彼女は闇に堕ちきっていないという予感がある。だからこそ人間とこの世界に対して本当に絶望しきる前に、繋ぎ止めておきたいと強く思った。
沈黙が流れる。
するとぼそりとレイディアントが何かを言ったような気がした。
「…かな」
「え?」
「魚料理が我の好みだ…」
「!」
メロディアは嬉しさのあまり顔を上げた。そしてすぐに出かける準備をし始めたのだった。
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