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メロディアはいよいよどうしていいのか分からなくなってしまう。ただただ抱きしめる腕に力を入れ、壊れたラジオのように大丈夫と繰り返しながら頭を撫でているだけだった。
するとメロディアの胸に顔を埋めていたレイディアントが顔を上げた。そしてメロディアを見るなり唐突に、
「…ダディ」
と呼んだのだ。
「え?」
「…ダディ」
まるで子供のようにギュッと力を込め、純粋に甘えてくる。
メロディアはレイディアントが悲惨な記憶から逃避するために幼児退行をしていると直感的に理解した。
当然、戸惑いこそ大きかったがメロディアに彼女を突き放すという選択肢など取れるはずもない。黙ってレイディアントの要望通りに仮初の父親を演じ、とにかく彼女を宥めることでその場を乗り切ろうとした。
その時。
メロディアはふと自分の服とベットが濡れ出している事に気が付いた。
「…oh」
一瞬、何事かと理解が追い付かなかったが、すぐにそれの正体が知れた。見ればくうくうと寝息を立てているレイディアントが盛大におねしょをしていた。
するとメロディアは何故かドロマーの姿を連想した。ドロマーがここにいたなら、
『これぞまさしくオネショタですね!』
とか、小粋なジョークでお茶を濁してくれていたに違いない…小粋なジョーク?
いずれにしても馬鹿げた妄想のせいで、邪な考えが一切起こらなかったのが救いでもある。
幼児退行したと仮定するならば、こういうこともあって然るべきかと思いながら再び魔法を使った。初めてこの魔法を開発した母に心の底から感謝すると同時に、「子を持って初めて分かる親の恩」という言葉を思い出した。
しかし改めて考えてみるまでもなく14歳のメロディアは所帯を持ってはいないし、子供はできていなかった。
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