2-29
「知れたこと。この世界を救うのだ」
「…魔王を殺しに行くつもりですか?」
「ああ。魔王を殺し、この世界のあらゆる悪を裁く。悪を根絶やしに、我と同じく善を為す意思のある者たちだけの世界を作る。選別されたより善良な民だけが生きることを許される、理想の千年王国だ」
レイディアントは翼に力を溜め、槍で押さえつけたまま二人に向かって羽を打ち込む姿勢を見せた。
「ここに運ばれたのはむしろ好都合。あの山の賊どもは既にみな裁いてしまった。ここの住民たちを選別し、共に悪を滅ぼす同士でも見つけることにする。その為にまず悪逆非道を極める貴様らにここで裁きを下そう…死ね」
その刹那、メロディアは自分の首に押し当てられている槍を片手で掴んで前に押した。レイディアントの身体はそれこそ羽のように軽々と後退させられてしまった。
驚愕しつつも手に力を込めて体勢を立て直そうとする。しかしどれだけ力もうとも片手で押さえているたった一人の少年は岩よりも頑なに動かなかった。
「バカな…!」
やがてちょっとした動作で容易く槍を奪われてしまったレイディアントは体勢を崩すのをどうにか堪えつつ、メロディアを睨みつけた。そしてなりふり構わずに聖化で生み出した翼で例の攻撃を繰り出そうとする。
だが、それもできない。
瞬くことも許されぬ間に祈りによって生まれた翼はメロディアの剣で斬り落とされてしまったからだ。
次いでメロディアは手にしていた父から譲り受けた聖剣・バトンを横薙ぎに振るった。刀身は空振りレイディアントにはまるで届いていなかったが、それによって生み出された凄まじい衝撃波は簡単にレイディアントを吹き飛ばし、反対側の壁に叩き付けたのである。
「がはっ…!」
メロディアはぐちゃぐちゃになったパンの一かけらを拾うと、凛とした声を出した。
「アナタの身に起こった事には同情します。けれど、あなたのやろうとしていることは間違いだ。どう思っているかは関係ない…そして何よりも僕は食べ物を粗末にする人間の言う事に聞く耳を持ちません」
その声がレイディアントに届いたかどうかは分からない。彼女は再び気を失ってしまったからだ。
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