1‐5
「どうぞ」
「ありがとうございます」
旅人は受け取ったスープの器を宝石のように大事に手に持った。一口、二口と飲み進めて行くとか細く呟く。
「美味しい」
そして早々に食べ終わると申し訳なさそうにお代わりを所望した。
メロディアが台所に向かうと、旅人は隙をついてまた部屋の中をキョロキョロと見回している。流石にもう問い質した方がよさそうだった。
「気になりますか?」
「え…?」
「何かを探しているようだったので」
旅人はお代わりの入った器を受け取ると口をつける代わりに、メロディアの質問に答えた。
「ここは勇者様のお宅ではないのですか?」
「いえ。正真正銘、勇者スコアの住まいです。もっとも今は旅に出ていますが」
「旅…失礼ですが、貴方は?」
「勇者スコアの息子でメロディアといいます。父は不在ですが歓迎しますよ」
そうか、目的は父だったか。とメロディアは納得した。
満身創痍とは言え、少なくとも森を抜けこの家に辿り着ける程度の実力を持った冒険者。ともすれば自分ではなく父が目当てなのは当然だろう。自分の知り合いなどはクラッシコ王国の中にしかいないが、父は全世界の名だたる王族貴族にまで知り合いがいる。冒険者の知り合いともなれば尋常ではない程の数がいることだろう。
「本当だったんですね。スコアに子供が生まれたというのは…」
「え?」
「メロディア君は…おいくつですか?」
「十三、いえ先月に十四歳になりました」
「そう、ですか」
旅人は再びスープに口をつける。しかし今度は啜るというよりも一気に飲み干してしまった。メロディアがもう一度お代わりを持ってこようとしたのだが、それは旅人に断られてしまった。
「少しお話させてください」
「ええ、僕でよければ。どこまで父の代わりが務まるか分かりませんが」
「いえ大丈夫です。たった今ここを尋ねた理由がメロディア君になったので」
「え、僕ですか?」
そして旅人は食事の際にでも深くかぶっていたフードを取り、初めて素顔をさらした。
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