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それからはドロマーの目算通り一時間程度でギタ村に辿り着くことができた。
ギタ村は村と言う名前がついてはいるものの、実際は十を超える貴族の屋敷が存在し商農の両面から見て重要な交易地となっている。その為に村の敷地も広く、傍目には都市と呼んでも差し支えない程の発展ぶりを見せていた。
かくいうメロディアもギタ村には数えるほどしか訪れた事がなかった。
クラッシコ王国の城下町も決して狭いわけではないが主な産業は鉄鋼業。活気こそあるかもしれないが、ギタ村に比べると華やかさは天と地ほどと言ってもいいだろう。だから来る度に人の往来に圧倒されていた。
しかしドロマーはそのような様子を一切見せない。そればかりか懐かしむように言った。
「相変わらずの活気ですね」
「ドロマーさんは何度か来たことが?」
「ええ。ここはどの国や土地に行くにしても中継点になる事が多かったので。スコア達と数え切れぬほどに訪れました」
それを聞いた時、メロディアの中に妙案が浮かんだ。
「でしたら思い出の店とかないんですか? 宿でも酒場でもここまで飛んでくれたお礼に一軒くらいでしたら選んでもらって構わないですよ」
「本当ですか? でしたら一つ思い出の宿があるのですが」
「!」
メロディアはそう聞いて少しワクワクした。腐っても目の前にいるのは勇者スコアと共に数々の冒険譚を残してきた【八英女】の一人。ひょっとしたら父からは聞くことのできなかったエピソードがあるかもしれないと思ったのだ。
そうしてメロディアは期待に胸膨らませてドロマーについて行った。
後悔した。
「ラブホじゃねーか」
「思い出の場所です」
「嘘をつくな。ギタ村に来ていたのはサキュバスになる前だろ。こんなところを使う訳がない」
「その通りです。あの頃の私はむっつりでしたから、いつかスコアと来てみたいと妄想するくらいしかできませんでした。甘酸っぱい思い出です」
「そんな乳酸発酵した甘酸っぱさは求めていない。もういいです、宿は僕が探します」
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