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だが夢を覚ますのはいつだって現実だ。
金銭的な事は採算がとれる計画が立てられているからどうにかなるが、それはあくまでメロディア一人で営業する場合のこと。旅先での仕入れや食材の購入、経理等々の仕事を考えると何人かの手助けは必要不可欠だ。
しかし一人でも雇えば途端に人件費で立ち行かなくなる。かと言ってまさか賄いが出るくらいの報酬でついてきてくれる人などいる訳もない。
正しくあちらが立てればこちらが立たぬという状況のお手本のような事態だった。
「魔王討伐みたいに目的が一緒の仲間がいればなぁ」
かつて父である勇者スコアの魔王討伐の旅に同行していたというパーティの事を思う。そのパーティのメンバーだって伝説級の英雄だ…会ったことはないが。
勇者の血縁であるメロディアが勇者のパーティに会えない理由。それは単純に全員が既に鬼籍に入っているからに他ならない。勇者スコアに同行していた八人の英雄たちは魔王との戦いの最中に命を落としたという。
その事についてだけは、勇者スコアは頑なに口を噤んでいた。
意味深な表情を浮かべる父の面影を思い出している内にようやく自宅まで辿り着く。すると月と星の明かりに照らされるばかりの我が家の前に誰かがいる事に気が付いた。
全身をボロボロのローブで覆っている客人は、玄関の前に座り込んでピクリとも動かない。深くかぶったフードのせいで性別はおろか、人かどうかすら判断が難しい。不審な点しか見つからない状況。だが自宅という事を除いても世界を救った勇者の息子であるメロディアがそれを無視することはない。ひょっとしたら道に迷った旅人が一縷の望みをかけてこの家に辿り着いたとも考えられるからだ。
そして、もし予想通りだとしたらきっとお腹を空かしているに違いない。メロディアは使命感を帯びてうずくまる客人に声を掛けたのだった。
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