2‐6
「ドロマーさん…」
ふんわりと甘い匂いに耐えられなくなったメロディアは少しだけ身をのけ反らせてドロマーの顔を見た。そこにはサキュバスとしてではなく、竜騎士としてのドロマーがいた。
そしてそれはメロディアが、ムジカ大陸の多くの人々が思い描く【八英女】の一人である竜騎士ドロマーの姿でもあった。
ドロマーは神々しくも思えるほどの笑顔で尋ねる。
「どうですか? 少しは落ち着きましたか?」
「ええ。ありがとうございます」
「ふふふ。少しはメロディア君の思い描いていた竜騎士ドロマーに戻れたでしょうか?」
「ええ。完璧ですよ……そのサキュバスの尻尾で僕のお尻を狙ってなければね」
メロディアは言うが早いかスペードのような先端をしていた尻尾を思い切りよく握った。正直千切れてもいいや、と思うくらいの力強さだ。
「ひぎぃぃ!」
「オイ。何するつもりだったんだ? 言ってみ?」
「む、昔の私に憧れていたようだったので、頑張って癒して差し上げようかと、イデデデ」
「そっちじゃねえよ。この尻尾で何しようとしてたんだ?」
「隙をついて尻尾の媚薬を打ち込もうとしました、ごめんなさいぃぃぃ」
「テメエ…」
「そ、それには訳があったんです。ちゃんとお話しますから。尻尾を引っ張らないでくださいぃぃ」
パッと尻尾を放すとドロマーはその場にへたり込んだ。半泣きになりながら優しく自分の尻尾を撫でている。
「で?」
「こ、この際だからはっきり言わせてもらいますよ!」
「何ですか?」
意外に好戦的に食らいついてきたドロマーを見て、メロディアは少しだけたじろいだ。そしてキッと鋭い目つきになったドロマーは訴えるように言った。
「メロディア君はぶっちゃけすごい好みなんですよ!」
「…はい?」
「考えても見てください。あなたは私がサキュバスになるきっかけになった魔王様と、サキュバスになった後に肉欲を貪る対象にしていた最愛のスコアの息子なんですよ」
「言い方」
「スコアの面影を持ちつつ、魔王様の支配的なオーラを発する。もう性欲の捌け口として本能を抑えられないんです。それを控えろなんてサキュバスにとってどれだけ責め苦か。言うなれば人間に向かってお腹を空かせるのを止めろと言っているようなものですよ」
「う」
自分の琴線に触れるような、上手い例えだと思った。サキュバスにとっての空腹と言われるとないがしろにしたり、無理に抑えろとは言いづらい。
「それにお尻の尻尾責めはスコアの弱点でしたし」
「会話の端々に父親の性癖ぶっこんでくるのを止めろ」
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