1‐20
「…ご馳走様でした」
「はい。お粗末様」
「美味しかったです。とても」
「それは良かったです」
メロディアは気を聞かせて食後用の紅茶を淹れに再び台所に向かった。
その様子を見つつドロマーは気配を消した。勇者の息子に逆恨み的な復讐を遂げるという目的は達成できなかったが、代わりに勇者とそして魔王が健在という有益な情報を聞けた。
あの二人が結婚していたというのは少し…いやかなりの衝撃であったがそれでも死んだと思っていた人が生きていてくれたことは喜ばしい。
これからは一先ず勇者と魔王を探す旅に出ようと思った。ひょっとしたら魔王が勇者を陥落させるために何かを企てているのかも知れないし、反対に勇者が魔王の魅力をとうとう理解したのかもしれない。どんどんとドロマーの中で妄想が膨らんでいく。
いずれにしてもそれは二人に直接会えば解決する話だ。
問題はその二人の力を色濃く受け継いだメロディアの存在。ドロマーはいまひとつ、彼の行動原理を計りかねていた。勇者のような慈愛を見せたかと思えば、途端に魔王のような冷徹さも垣間見せてくる。
いずれにしても実力で立ち向かうのが難しいのは昨晩の事で経験済み。厄介な事になる前にそっと姿を消してしまおうという算段だった。
しかし。
「どこに行くんですか?」
「ぐえっ」
メロディアは忍び足で逃げ出そうとするドロマーの髪を掴んで止めた。
「いえ。スコアも魔王様も生きていると聞けたので少しでも早くお会いしたくて」
するとメロディアはニコリと笑った。その途端ドロマーは鼓動が早くなったことを自覚したのだ。散々に恋い焦がれたスコアと、淫靡で蠱惑的な魔王の良い所だけをかき集めたようなそんな笑顔だった。
だがメロディアは低く、冷たく言う。
「行くんなら家と屋台、弁償してください」
「え?」
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