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魔王を倒した勇者の息子に復讐をする悪堕ちヒロイン達  作者: 音喜多子平
メロディアの最後の仕事
159/163

14-2

 ◇


「こ、こ、こんばんわ…」


 その日の夕方、ミューズの表戸を開けて訪ねてくる者があった。リトムその人だ。普段はダウナー系のオーラが全開であるが今日に限っては分かりやすいくらいに緊張の色が見える。


 敬愛する魔王に会えるとなった彼女は目に見えて服装にもメイクにも気合が込められていた。


 洗練されたおしゃれな学生服風と言えばいいのだろうか。金の髪は前髪が揃えられ、サイドにカールしたツインテールにまとめられている。赤い花飾りが月明かりのような髪の色に映えていた。


 白いシャツに黒いジャケットを合わせ、ベストの金のボタンが気品を表している。かと思えばピンク色のネクタイとフリルが幾重にも重なったスカートとニーハイソックスが若々しく、同時にフェミニンな印象も与えてくるのだ。


 足元は黒の膝下まで届くロングブーツで引き締められていて、全体のコーディネートに統一感を持たせている。全体としてシンプルでありながらも細部にまで意匠の凝ったファッションでエレガントさと可愛らしさを醸し出していた。


「いらっしゃい。待ってたよ」


 すぐにメロディアの優しい声が出迎える。食堂の椅子に座っていた彼は気さくな笑顔を見せる。すぐに辺りを見回したが他に誰かがいる気配は感じられなかった。


 キョロキョロと周囲を気にするリトムに向かってメロディアは言う。


「ちょっと準備してもらってる。座って待っててよ」

「うん…」


 とは言われてもリトムは落ち着けない。魔王と会える事もそうだが、付き合っている恋人の両親と顔を合わせるのだって緊張するイベントだ。立っても座っても地に足のつかないリトムはいっその事と天井にくっついて逆さまになっていた。


「どういう感情?」

「吸血鬼だからこの方が落ち着くの」


 それから五分も経たない内に階段にゴソゴソと人の気配が生まれた。見れば勇者スコアを筆頭に八英女らが二階から降りてくるところだった。


 元通りとまではいかないものの八人ともかつての理性と清純さは取り戻しており、それがようやく馴染んできている。格好や装備も昔のソレを踏襲しつつも今風にアップデートされた服や鎧を纏っていた。本人たちの見目麗しさと相まって絵画の中から飛び出してきたような神々しさがあったのだ。


 勇者スコアが率いるパーティのそのオーラにはリトムはもとより、メロディアさえもが目と心を奪われた。物言わずとも彼らは英雄なのだと納得させられる。それだけの説得力に溢れていた。


 上と下で固まっている二人に気が付いた一行は朗らかに挨拶をしてきた。


「いらっしゃい、リトムちゃんでいいんだよね?」

「あ、はい」


 熟れきった果物がぽとりと落ちるようにリトムは天井から剥がれ、床に立った。


「はじめまして。メロディアの父でスコアと言います」

「り、リトムです…今日はお招き頂きありがとうございます」

「うん。けどそんな畏まらないで自分の家だと思ってゆっくりしていってね」

「…」


 そんなのは無理難題に決まっている。一国の王の御前にいるくらいに緊張しているのだから。


 けれどもリトムには「はい」と答える以外の選択などあるはずもなかった。


「それとこっちが八英女のみんなだ。メロディアからは事情を聞かされているらしいけど、余計な混乱を招くかも知れないからできるだけ内緒で頼むよ」


 スコアは口元を人差し指で押さえると流れるように後ろにいた八英女を紹介し始めた。


 八人とも品格を保ちつつも努めてフランクに接してくる。その様子にリトムは感激し、メロディアは困惑していた。


 メロディアに取っての第一印象は悪堕ちした後のものなのだ。それが強烈過ぎたあまり元に戻った八人の様子が違和感にまみれて仕方がない。要するに誰だお前と口ずさみそうで大変な状態だった。


「すご…本物だ」

「ふふふ。ここまで喜んでもらえるなんて光栄です」

「あれ? でもメロディアが言うには魔王様の影響を受けて悪堕ちしてるって話じゃ」

「つい昨日までそうだったんだけどさ、勇者のおかげでどうにか元に戻れたって訳よ」

「そう、なんですね…」

「あら? 残念そうなお顔の理由を尋ねても?」

「あ、いえ。アタシも魔族っすから、魔性を持ってる方が打ち解けられたんじゃないかなって」

「あっは! 別に魔族だからって差別したりしないよ〜」

「うっす…」

「でも折角ですから、私達が悪堕ちした姿もご覧になられますか? リトム様」

「え?」 


 え? と声を出したのはメロディアだった。


 すると止める間もなく八人は淡く暗い光に包まれたかと思えば、扇情的かつ妖艶な姿となった。こちらの方が見慣れているのはメロディアに取っては皮肉だった。


 その上こっちの姿の方が何となく生き生きしているようにも見える。


 するとファリカがうんと伸びをしながら出てきた。


「やっぱり肩凝りますね、表の姿は」

「というか何でソルカナさんの後ろに隠れてたんです?」

「ボク極度の上がり症でさ。魔族になれば大丈夫なんだけど…性格にも影響出るの面倒くさ〜」

「で? どうよ、あーしらの姿は? 仲良くなれそ?」

「…や、やばいくらいカッコいいっす!」

「リトム!?」


 バチクソテンション上がってる、なんて表現がピッタリなくらいに舞い上がったリトムはまず一番手前にいたファリカの手を握ると真っ直ぐな視線を向けた。


 そこには立て板に水の勢いで捲したてる一人の女の子しかいなかった。


「皆さんの格好! エロさの中にも誇りとプライドが滲み出てて目茶苦茶魅力的っす。何だろう…全部が闇に飲まれても心のほんの一片にだけ光を感じているって言うのを全身で表現している感じが溜まらないっす!」


 ここまで全部見てきたみたいに例えてる。メロディアはここまで快活なリトムを見て唖然とし、八英女も珍しく真っ直ぐな称賛の言葉を浴びて珍しく照れていた。


 同時に八人ともすっかりとリトムの事が気に入ったようだった。


「悪堕ち…やっぱり良い文化だ」

「…え? リトムって悪堕ち好きなの?」

「めっちゃ好き! 子供の頃は英雄とかお姫様の悲譚が好きだったんだけど、そう言う話を集めてる内に敵に与して裏切る話を読んじゃって一気に目覚めた。清楚が淫乱に、善意が利己的になるギャップが堪んねえっしょ。そこで自分の抱えてたモノが解放されるカタルシス! パラダイムシフト! レヴォリューション! 更にそこに悲恋とか誤解とか憎愛とかが絡んで来た日にゃ1日三食しか食べられない!」

「おぉ~!!」


 何かしら自分らに引っかかる文言でもあったのか、八英女は感嘆し拍手してる奴もいた。そしてその勢いはメロディアにも飛び火する。


「私は吸血鬼なので悪堕ちできる立場にいないのが悔しいっす…」

「え? ダメなの?」

「は? 何を当たり前のこと聞いてんの!? 滝ってのは水が流れ落ちるから綺麗なの。上にあるものが下へ落ちる動態に感動するんだよ。落ちてるモノが落ちる事はないの! それで行くとアンタ!」

「え?」

「メロディアが悪堕ちするのが一番絵になる」

「…リトム?」

「純真無垢、正々堂々、忘己利他を地で行く…しかも勇者と魔王様の血を引くなんて悪堕ちするために生まれてきたようなもんじゃん!」

「あの…」

「素晴らしい卓見じゃ、小娘!!」


 その時、階段の踊り場から凛とした声が響いた。見れば魔王ソルディダが新興宗教の教祖の様な装いで立っていた。けれども身に着けているものはメロディアやスコアがよく知るソレとは大分違う。


 今までは人間に化けていても魔王よろしく仰々しい黒い鎧に身を包んでいたのだが、大分冒険者らしい格好だ。


 通気性の良さそうな長袖のシャツの上にボディラインに合ったレザーアーマーを着用している。肘から先についたガントレットはデザインに凝っており、かつての魔界の王だった者の片鱗が伺える代物だ。


読んで頂きありがとうございます。


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