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魔王を倒した勇者の息子に復讐をする悪堕ちヒロイン達  作者: 音喜多子平
閑話 メロディアの仕事5
147/163

12-10

 その隙を付き、ドルシーはソアドの事を軽く足蹴にした。すっかり放心状態のソアドは何の抵抗もなく尻餅をつく。


 後にはドルシーのささやかな嘲笑が漂っていた。


「この程度で尻餅って…よわ」

「ふ…っ!!」


 次の瞬間、ソアドは目の前が真っ白になり何も思考ができぬ程に激昂していた。言葉とも叫びとも取れない声を出すと明確な殺意を持って妹の顔面に渾身の力で殴打を加える。


 だが、それも女の実に柔らかい掌で容易く止められた。


「この拳がとても怖かったのですが…すっかり可愛らしくなってしまいましたね、お兄様」


 現実を受け入れられず唖然とするソアドを尻目にドルシーは子供をあやすように兄の頭を撫でる。ソアドはすぐにハッとして素早い蹴りを見舞うも今度は空を切るだけで数間置いてから避けられた事に気が付く有り様だった。


 ソアドは呆然と佇む仲間たちに激を飛ばす。


「何してんだ!? こいつらを黙らせろっ!!」


 冷や水を浴びせられたようにビクッと反応した兵士達はすぐに手当たり次第に賄い人達に襲いかかった。しかしソアド以上に勝負にならない。攻撃は悉くかわされ、往なされお手本のように翻弄されるばかりか、クスクスと嘲りの声まで聞こえる始末だ。


 いよいよキレたソアドは腰に差していた剣を抜いた。それに倣って仲間たちも賄い人たちを明確な敵として認識した。


 しかし真剣を前にしても女たちの態度は変わらない。そればかりか、剣を抜いたことすら嘲笑の材料にされる。


「あら? 女を、しかも賄い婦風情に剣を抜くんですか、お兄様」

「うるせえ! てめえら全員ぶっ殺してやるっ!!」

「いいですわよ。一方的過ぎて可哀想でしたから剣をお使いになってくださいまし」

「ふざけんな、このガキゃぁぁ!!」


 罵声を気合いとしたソアドは本気の一撃を放つ。その一振りは新兵の彼にここまでの暴虐武人ぶりを認めさせている最たる要因。新入兵士のまとめ役を任されている隊長クラスですら一目置かざるを得ないほどの強靭な一撃。大抵の者なら一撃を受けることで瀕死になり、防いだところで致命傷は必須の技。


 この一撃を編み出せたからこそソアドはここまで来ることができた。それはドルシーも知っている。だからこそその技を容易く打ち破った時、兄がどんな顔になるのか楽しみで仕方なかった。


 しかも。ドルシーの得物は普段、自分が磨いている食事用のナイフ一本だった。


 素早くナイフの先端をソアドの手の内に潜り込ませる。ソアドは振り下ろすがドルシーは突き。到達時間は紙一重だけドルシーが早かった。


 ドルシーのナイフはソアドの手の甲の薄皮を切り裂く。集中していた分、鋭い痛みが彼の脳を侵し一瞬の鈍りを見せた。そうしてできた一瞬の隙にナイフを巻き込みソアドの剣の軌道を完全にコントロールしてしまう。敢えなく空を切っただけの剣は轟音と共に地面にめり込む。


 その音が空振りした滑稽さをより強調させた。

 

 剣の重心をずらされたソアドはどうにか転倒だけは避けようと足を開いて踏ん張った。そしてそれこそがドルシーの待ちわびた瞬間だ。情けなく大股を開いている兄の背後に回り込むと皮肉と侮蔑とをたっぷりと練り込んだ一言をソアドの耳に飛ばす。


「痛いらしいですから、覚悟してください。お兄様」


 彼女はそう言って遠慮なしの蹴りをソアドの股間へ打ち込んだ。


「あぎょおぉおお!!?」


 ソアドは生まれて初めてこれほどまでに情けない声を出した。しかし幸か不幸か、悶絶する痛みに失神してしまい自分の耳には届いていなかった。


 泡を吹いて地面に突っ伏す兄の前に回り込んだドルシーは冷ややかに、そして畏怖を覚える笑みでソアドを見下す。


「そうです。これからは私にはそうやって頭を下げて暮らしてくださいまし。そうすれば悪いようには致しませんわ」

「ドルシー…かっこいい」


 今期の期待のルーキーを赤子の手を捻るように退けたドルシーを見て、他の賄い人たちは歓声を上げた。それとは対照的にソアドの仲間たちは声にならぬ悲鳴を上げては、腰の抜けた醜態を晒しながら四つん這いで逃げていく。


 すると、やはり変わり果てたリンダイが行く手を阻む。元々あった包容力溢れる姿は淫靡に強調され芳醇な色香を放つが逃げ延びたい一心の兵士達には無用の長物だ。ひいひいと進む方向を変えては必死に這いずり回るばかりだった。


「国を守ろうって兵士の端くれが逃亡はいけないねぇ。それとも四つん這いで逃げるふりしてそのキュートなお尻に打ち込んで貰いたいのかな、ソアドみたいに」

「きゃ! そうならそうと早く言ってくださいよ~」

「ひ、ひぃぃいい!!」


 賄い人たちは玩具を買って貰った子供のように喜び、兵士達を弄び始めた。


 最後の一人が気絶すると何処からともなく八英女が姿を現す。その表情は愉悦そのものであった。賄い人らは八英女の姿を見定めるとすぐに整列をして片膝をついては畏まった。


読んで頂きありがとうございます。


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