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魔王を倒した勇者の息子に復讐をする悪堕ちヒロイン達  作者: 音喜多子平
閑話 メロディアの仕事5
146/163

12-9

 ◇


 そんなこんなで三日後の夜。


 宿舎の厨房に起きている異変は徐々に兵士達にも気が付かれていた。


「なあ、何か最近食堂の様子がおかしくない?」

「それな…」

「リンダイさん含めて給仕係が軒並みいなくなってるし、それよりもあのピンク髪の男の子なに? 俺たち全員の料理作って、配膳して、片付けまで全部一人でやってんぞ…」

「知らないよ。アレだけの仕事を嬉々としてやってる奴に話しかけられないし。そもそも怖いよ」

「けど問題はそこじゃないって。ただでさえ女っ気が少ないところに給仕がいなくなったからソアド達の機嫌が悪い悪い」

「八つ当たりは勘弁してほしいよな…」


 一日の訓練を終え、後は寝るだけという暇に兵士達の何人かはそんな事を話しながら廊下を歩いていた。


 しかし運悪く、それが近くにいたソアド本人の耳に入ってしまう。


「…おい」

「あっ、え、ソアドさん…!」


 ソアドは振り向いた同輩の襟を掴むと強引に締め上げた。絶え絶えな声で「すみません、すみません」と謝る声が廊下に飲み込まれていく。


 途端に馬鹿馬鹿しさと虚無感を覚えたソアドは乱暴に手を離す。そして不機嫌な眼光と舌打ちとを残してその場を後にした。


 それは同輩達が言っていたことが図星だったからに他ならない。


「っち。また誰か誘って抜け出すか…けど見つかっても面倒だしなぁ」


 愚痴をこぼしながらソアドは自室に戻って行く。複数人での合同部屋だが暴力に物を言わせて自分に取って都合のいい面子ばかりを集めているので、この宿舎の中にあってまだマシな居場所となっていた。


 要するにソアドの息のかかった素行の悪い連中が集まっているということだ。


 部屋に戻ると仲間らが妙に浮ついていた。少なくともソアドが戻ってきたことにすら気が付かない様子で屯しては何かを見ていた。


「何かあったのか?」

「ソアド…いや、これ見てくれよ」


 一人がそう言って紙切れを一枚差し出してくる。受け取って分かったが、それは一通の手紙であった。


 この部屋の全員を呼び出すような内容で時刻はもう間もなく、場所は古くなって使われなくなった演習場と書かれている。


 それよりも驚いたのは差出人の名前が妹であるドルシーとなっていることだった。


「何のつもりだ…?」

「どうするよ?」

「どうもこうも、全員で来いって書いてあるんだから行こうじゃねえか。あそこの賄い共がいなくなった理由も気になるしな」

「飯は美味くなったからいいんだけど…」

「けど武器持参でってどう言うことなんだ?」

「知るか。とにかく行くぞ。この内容じゃ賄い連中が集まってるらしいし、場所が場所なんだから少しは可愛がれるかも知れねえな」


 ソアドが下卑た笑みを見せると全員がそれに従って下品な妄想を蔓延らせる。


 夜に抜け出すことに慣れているソアド達は瞬く間に支度を済ませ、部屋を出ていった。


 ◇


 やがて手紙で指定された時間に演習場へやってきた。月明かりはあるが照明らしい照明は持参したランプだけなので些か心許ない。


 木の葉の揺れる音さえも神経を過敏に触ってくる。


「おい! 来てやったぞ、誰かいねえのか!?」


 闇夜に駆り立てられた不安を払拭するようにソアドは虚空に声を飛ばした。


 しかし夜が返事をすることはなかった。


「ドルシーの奴、まさか担ぎやがったのか? だとしたら…」


 ギリッとソアドが奥歯を噛み締める音がやけに響いた。するとそれに呼応するかの様に木陰からドルシーが現れ出た。


 警戒していたのにも関わらず不意を付かれたソアド達は声を出すこともできぬ程に驚いた。


「お兄様」

「うおっ!?」


 見ればドルシーを先頭に賄い人達が気配なく自分たちを取り囲んでいる。顔はよく見知った面々だが外套を羽織っているせいで顔以外がまるで見えない。ソアドらは一戦士の勘として何か嫌なものを感じ取ったがそれには気が付かないフリをした。


 そして精々の虚勢を張って言葉を返す。


「…へっ。三日ほど姿が見えなかったけど何してやがった。まさかストライキなんて生意気な事抜かすんじゃねえだろうな?」

「今までの行いを改めて考えいたんです」

「あん?」

「お兄様はいつも力に物を言わせて私を従えようとしますでしょう?」

「…それが?」

「それを受け入れてみたんです。力を持たぬ者は力を持つ者に従うべきではないかと。そしてそれこそが持たざるものの幸せなのではないかと」

「…ふっ、へへへ。何だよ、随分と殊勝な事を言いやがって」

「ふふっ」


 すると周りを取り囲んでいた賄い人達が次々と外套を脱ぎ始める。露出が多く、ボディラインを強調するような服が月明かりに照らされる。


 男たちは生唾を飲み、そしていやらしく口角を上げた。


「ようやく分かったか。いつだって弱い奴は強い奴に従うしかないんだよ。それが分かりゃ、可愛がってやれるってもんだ。なあ、お前ら」

「へっへ。ソアドの言う通りだよ。俺たちに大人しく従っておけばいい。この騎士団で出世は間違い無しの腕前なんだからよ」

「はい、力の強い方が偉いと身に沁みました。ですから…皆さんは私達に跪いてください」


 ドルシーは満面の笑みでそう言った。突拍子もないない事態にソアド達は耳を疑い固まってしまう。

読んで頂きありがとうございます。


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