12-1
「…という訳で、コンカフェのような店にすれば全てが丸く収まると提案します」
昼食を取り終えた後、全員で食堂ミューズの今後の方針を話し合っており、色々と議論を交わした末にドロマーがそう結論付けた。
「ま、アレも駄目コレも駄目では皆さんの自主性が育ちませんからね、過度に性的でなければ目をつぶります」
「いつの間にか手の掛かる子供みたいな扱いに…!?」
「されど年下ショタに子供扱いされるのは刺激的ではないでしょうか」
「あはっ! ドロモカ、わかってる〜」
「恐れ入ります」
「…」
え? 今更だけどコイツらをまとめ上げるの?
メロディアは改めて現実を目の当たりにすると少しだけ息が苦しくなったような気になった。
「私達は八人いますので、一人一つコンセプトを決めましょう! ローテーションすれば日替わりで様々なコンセプトをご提供できます」
「僕、省かれてません?」
「カカカ。メロディア様も決めちゃう感じ? いいぜ、ご命令とあらばどんな際どい服でも着てやっから」
「すみません。軽率でした、僕は監督に回ります」
そういうと八人はきゃいきゃいとはしゃぎながら、アレコレと食堂の日替わりコンセプトを話し始めた。
このくらいの愛くるしさでいればいいのに、とは思うがメロディアは口にはしない。
話を聞く限りでは母である魔王ソルディダに本性を解放されて救われている節もある。それに魔界で長らく封印されていたことを考えると、戸籍上の年齢と実際の年齢は合ってはいないのだろう。
勇者スコアと同年代と考えれば全員が四十代前後のはず。けれど二十年間の封印分を差し引けば二十歳そこら。どちらかと言えばメロディアよりも少し上のお姉さんくらいの年齢差だ。
それでも歴戦の戦士であることには変わりないから、同年代と比べれば一回りも二回りも大人びては見える。
だから勿体ないと思う反面、決して自分の理想の八英女像を押し付けるべきじゃないとも思っている……押し付けるべきじゃないけど、かつての栄光と尊厳に満ち溢れた八人を見てみたいというのも事実としてあった。せめて一日くらいでも。
「ふむ。制服やコンセプトはおおよそ検討がついたが、後は肝心の飲食店の店員としてのスキルだな。それぞれがかつての経験を持っているとは言え客商売となれば一定の水準は欲しかろう」
「ですね。まともな労働をした事のあるメンバーの方が少ないですし、ボクも足を引っ張りたくはないです」
「あーしも時間制限付きの調理とか大人数用の調理とかは不馴れだしなぁ。配膳、給仕、調理なんかがいっぺんに訓練できりゃいいんだけど…」
「あはっ! そんな都合の良いところ、」
「ありますよ」
メロディアが実に簡単に言ったことで自然と八英女全員の視線を集めた。そして当然ながら全員の目が「それはどこか?」と尋ねてきていたので、答えを打ち明ける。
「クラッシコ王国騎士団の宿舎です。当たり前ですが騎士が大勢いますし、朝昼晩の三食とも数百人の固定利用があります。僕もたまに応援を頼まれて顔を出すんで頼めば入れてくれると思いますよ。ちょうど隣国を含めた大規模な演習があったはずなので人手は探してるんじゃないでしょうか」
「カカカ。いいねえ、食べ盛りの騎士様達にご奉仕ができるって訳だ」
「しかも私たち八英女が若輩騎士に傅くというのは、没落ヒロイン凌辱物のプロローグとしてもばっちりです」
「ふふふ。流石はドロモカ、分かっていますね」
「恐れ入ります」
「して? その宿舎への勤務はいつ頃からできる?」
「まずは話を通しに言ってからですけど…基本的にはこちらの都合は聞いてくれると思いますよ」
「分かりました」
するとドロマーが指折り何かを数えたり、紙に手早くメモを取ったりと慌ただしくなった。残る七人も所々で口を出しては計画を練り固めていく。
やがてニタっとした笑い顔とともにドロマーはメロディアを見た。
「メロディア君」
「はい?」
「では今日から三日間の猶予をください。その間に八通りのコンセプト衣装の叩き台を完成させます。それを引っ提げて騎士団宿舎へと参りましょう!」
「分かりました。では早速騎士団に打診をしに行ってきますので、皆さんは思い思いの準備をお願いします」
「了解です!」
メロディアは店を出ると一路、王宮を目指して歩き始めた。
途中で衣装なら自分の服を産み出す魔法を使えば良かったと思い至ったのだが、服飾が好きなドロマーから楽しみを奪うこともなかろうと自分の考えを否定した。尤も過激すぎる場合は容赦なくソレを行使しようとは思っていた。
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