11-5
『全員、順番にメモを読み上げろ』
「!?」
全員が一斉にしまったという顔になった。
抵抗の意思は見せたものの魔王の血を色濃く継いでいるメロディアの言霊に敵うはずもなく命令通りにメモを読み上げ始めた。
「ではドロマーさんから行きましょうか」
「あぐ、あ」
「いいから、はよ読め」
「め、メロディア君はリムダラという果実をご存じですか?」
「え? 知ってますけど」
リムダラとはバナナのように細長く、食間はリンゴや梨のようにシャリシャリとした南国のフルーツだ。種が細い三日月みたいになっており果肉を歯で削ぎ落とすように食べる。南方で採れるが旬の時期にはこのクラッシコ王国の城下町でも出回る機会は増える。
「む、昔に旅をしていたときに知ったんですが、リムダラの種を塩漬けにして食べる地域があったんです。塩気と食感が良かったのでご飯ものと一緒に出せば喜ばれるのではないかと思ったんです。例えば親子丼とか」
「へえ」
種は捨てるものだと思っていたメロディアは未知の料理法に素直に感心した。流石は世界中を旅してきただけの事はあるなと思うのと同時に、下ネタが全く出てこないことにも気が付いた。
あれ? ひょっとして本当に真面目にメニューを考えていただけかと頭に過りつつ、ドロマーの話の続きを聞く。
「ですのでリムダラの種の塩漬けと親子丼セット、略して『種漬け親子丼セット』を…」
「却下だ!!!」
感心して損をした!
怒号と共に鉄拳をお見舞いしたメロディアは他の六人に対しての情けを捨てた。辛うじて残しておいた慈悲と温情は忘れ、隣にいたドロモカを見る。
「ドロモカさんは?」
「わ、私もです。お姉様がリムダラの塩漬けを気に入っていた事を思い出し、肉料理と提供できればと」
「具体的には?」
「ハラミを香ばしく炭火焼きにして、『種漬けハラミ定食』を…」
「一緒じゃねーか!」
共にダブルミーニングを駆使してくるとは、流石は姉妹の契りを交わした変態ドラゴンコンビ。これで血の繋がりはないのが不思議だ。
次いでメロディアは殺さんばかりの勢いでレイディアントとラーダの二人を睨んだ。
「あ、アタイとレイディはドリンクを…」
「う、うむ」
「言ってみろ」
「我はどうせ吐くほど飲むのなら己の罪咎も洗いざらい吐き出させる『特製自白剤サワー』を…」
「アタイはエルフの知識を活かして果実酒で酎ハイを考えてね? 濃厚な果実酒でベロベロに酔っ払う酎ハイ、略して『濃厚ベロチュー』みたいな…」
「よし、二人とも歯を食いしばれ」
救いようがねえな、こいつら。
二人に制裁を加えた後、残る三人に視線を送る。とりあえず真っ先に視界に入ったソルカナを名指しで指名した。
「ソルカナさんは?」
「お、オレはデザートでもと思って」
「ほう?」
「世界樹の精霊として木の実や花の蜜を精製できるから、それを駆使して『蜜の滴る青い果実を丸かじり』ってジョークとウィットに富んだメニューを…」
「ははは。起きたまま寝言をいうのはおかしいので気絶してもらいますね」
その瞬間、ゴキッと鈍い音が食堂の中に響き渡った。ソルカナが崩れ落ちるのと同時に「ひいっ」と短い悲鳴が上がる。その声の主であるファリカが次のターゲットになる。
メロディアはもう口許は笑っていても目元が冷淡な光を帯びていた。
「ボ、ボクはパンを考えて…」
「ああ。じゃあ『なんとかパイパン』とか言うつもりだろ」
「オチを先に言わないで!」
「オチって何だ!? 大喜利やってんじゃねえんだぞ!」
デコピンでファリカの意識を奪うと、メロディアは残るシオーナを捕らえる。彼女は機械化された顔を崩すことはなかったが、それでも蒼白な雰囲気を醸し出していた。
そしてフルフルと震えた手でメモを見せながら、自らのアイデアを読み上げたのである。
「き、キスの天ぷら」
「……はい?」
発言とメモを比べて尚、意味が分からなかったメロディアは意外にもすっとんきょうな声を出した。シオーナは顔色こそ変えなかったが耳から白い煙を昇らせて恥ずかしさを現している。
「ごめんなさい。みんなと違ってあそこまで如何わしいメニューが思い付かなかった」
「それは謝ることじゃない」
「しかもこんな小学生のような回答を」
「だから大喜利じゃないんだよ!」
それにしてもエロさ全開のメニューを考えさせて出てきたのがキスの天ぷらって…。
肩透かしを食らったメロディアはすっかりと毒気が抜かれてしまった。これが計算されたものだとしたら相当なもんだ。まあ、ここまで冷静になってしまえばどちらでもいい事だったが。
するとそのタイミングでミリーが厨房から戻ってきた。両手と頭と尻尾を使い、器用に料理が乗った大皿を運んでくる。
「待たせ…え、何これ?」
死屍累々の現場を目の当たりにして呆然としたミリーだったが、すぐに全員が何かしらをやらかしてメロディアの鉄拳制裁を喰らったのだろうと察した。
それと同じ様にメロディアもミリーもポケットにメモ紙を隠し持っている事に気が付き生き馬の目を抜く速さで取った。
「…案の定、あなたもですか」
「あん? あ、それ…」
「言い訳は中身を見てから聞きますよ」
色々と手間に感じていたメロディアは今度は自分で中身を改めた。するとメモにはミリーが旅の中で培った料理のレシピや今しかだ厨房で確認した食材を使っての創作料理の叩き台が記されているばかりだった。
「どうだ? 折角手伝うならこういうメニューが出せれば面白いんじゃないかと思って殴り書きにしてみたんだけど」
「いや、真面目か!」
「何が!?」
まるで意味の分からないミリーの声が店の中に反響した。
その後メロディアは全員が自然に目を覚ますのを待ちながら、ミリーの味付けのセンスと確かな技術に脱帽するような思いで料理を口に運んでいた。
ひとまずここまでで。
また書き溜めた後に載せます。