11-4
「制服は任せてください。エロと可愛いが見事に調和したのを用意しておきますから」
「働くのは吝かではないが…役職はどうする? 我は修道院時代の経験を活かすなら配膳を任されたいのが本音だ」
「まずミリーさんとメロディア君が厨房は確定ですね。個人的な事を言えばボクは人前にはあまり立ちたくないので広報やら経理、表に出るとしてもお会計とかを手伝えれば」
「…オレもこの図体だし、どちらかと言えば裏方がいいな。けど料理の経験はねえから、デシャップとか?」
「ソルカナ様は要領も良いですしピッタリだと思います! かつてのパーティでも指令塔でしたし」
「私はドリンクやデザートを任されつつ、皿洗いがしたいです」
「お姉様と同じであればどこでも構いません」
「うふふ。何だかんだで役割分担ができてしまいましたね。私とドロモカ、ラーダ、レイディアントがウェイトレスとしてホールを担当しつつ、他のみんなは今言ったポジションに収まれば丸く収まるのでは?」
話を極めて簡潔にまとめたドロマーは爛々とした顔でメロディアを見る。普段のサキュバスっぽさは微塵もなく、ずっとそうしてりゃいいのにと思いつつも、メロディアは返事をした。
「そうですね…言う通り問題はないかと。それにしても皆さんウキウキですね」
「当たり前です。かつては戦い、今ではエロに明け暮れている私達ですが普通の町娘として働いてみたいという願望はあったんですよ」
「あはっ! めっちゃ分かるー」
「ははぁ。そういうものなんですね」
「ところでこの店の名前は」
「『ミューズ』といいます。とは言っても看板は外してますし、しばらく営業をしてないので変えたって問題ないと思いますけど」
メロディアがそんな事を言い出すと全員が昂揚した。あれこれと考えを巡らせ店名を思案し始める。
思い思いの店名を口にしだすが、どれもこれも下ネタにはかすりもしないオシャレであったりセンスを感じさせるものばかりだ。
…誰だこいつら。
メロディアは自分が預かり知らぬ内にそっくりさんに入れ替わっているのではないかと本気で考えるくらいには訝しんだ。
会話の内容は徐々に盛り上がっていき、次第に内装であるとか出したいメニューの話などに膨らんでいく。扇情的な格好は致し方ないにしても、ここまでの雰囲気は普通の女の子のようだ。
やがて積もりに積もったメロディアの怪訝な念は八英女達にも伝わったようで、反対に尋ねてくる。
「どうかしましたか?」
「こっちの台詞ですよ。どうしたんですか、皆さん…」
「どういう事?」
と、ラーダとシオーナがわざとらしく小首を傾げた。
「いつもの見るも無惨な残念八英女はどこに行ったんですか? このままだと皆さんの事を見直してしまいそうです」
「ボク達の事を何だと思ってるんですか…?」
「世界一恥ずかしい生きる伝説」
メロディアは食い気味に普段から思っていることを限りなく簡潔に述べ伝えた。
対してミリーを除いた七人は苦言を呈するような面持ちに変わる。
「中々な言われようですね」
「本当に。元はと言えばメロディアの母親のせい」
「それを言われると辛いですけど…」
「ドロマーが先に言ったでしょ。普通の町娘として生きてみたいって。悪堕ちしてたってそれは変わらないよ」
「堕ちたとは言え、我らも八英女の名を捨てた訳では無い」
「メロディア様。この時ばかりはどうかご信任を賜りますれば」
メロディアは非常に申し訳ない思いになった。そしてせめてもの謝罪のつもりで深々と頭を下げた。
「すみません。皆さんの事を見くびってました。許してください」
「カカカ。分かればいいって」
そう言い終わってから顔を上げたメロディアは微笑む。その場の全員がメロディアの笑顔を見た瞬間に、背筋が凍りつくほどに寒気を覚えた。ついで七人はその悪寒の原因を知る。
机の下から現れたメロディアの手に見慣れたメモ紙があったからだ。
「じゃあ全員が服に隠し持っていたこのメモの中を改めても問題ないですね?」
「「!?」」
「『メロディア君に気付かれないように考えた裏メニュー』って中々刺激的なタイトルじゃないですか」
メロディアの取り出したメモを見定めた七人は、慌てふためき紙を隠していたはずの場所をまさぐった。
若干名がどさくさに紛れて触る必要のないところを触っていたが。
「誰もそんなところに隠してはなかっただろ!」
「け、穢れだらけの乙女の体をまさぐったんですか!?」
「嘘でもいいから、そこは穢れなき乙女と言ってくれ」
「メロディア様! 返してください。そのメモはR18指定をされています」
「なら、もうヤバいメモで確定じゃねえか!」
「ヤバいメモだと確定して、ボクたちはケツアナ確定って事ですか!?」
「長年封印されてた癖に、何でそっち系のネットスラングは抑えてんだよ」
「おしおきなら待ってくれ。Mのソルカナに変わるから」
「そのままで待っとけ!」
「アタイの分のおしおきもソルカナ様に回して!」
「アンタ本当にソルカナさんの事を尊敬してんのか?」
「まあいいさ、見るがいい。我は何も恥ずべき事は書いておらん」
「どっから湧いてくるんだ、その自信は」
「…」
「シオーナさん、せめて何か言え!」
怒濤の台詞ラリーが終わると、メモを巡って今度は息もつかせぬ争奪の応酬が始まる…かと思いきや別にそんなことはなかった。
全員が中身を見られる前に奪い返そうと手を伸ばしたところ、何の抵抗もなく自分の掌にメモを取り戻した感触を得たのだ。あまりにもあっさりと事が運びすぎて、偽物を掴ませれたのかと中身を確認する。しかし中身を見てもこれが本物だという裏付けになるだけだった。
まさか…お目こぼし?
そんな甘い考えが過りつつ七人はメロディアの顔を見た。同時に冷たく笑う顔に戦慄する。
彼が笑った理由は簡単だ。
メロディアは本人たちにメモを読ませる手段がある。そう。言霊ならね。
読んで頂きありがとうございます。
感想、レビュー、評価、ブックマークなどしてもらえると嬉しいです!




