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普段ならツッコミの一つでも入れているところだけど、今はそれどころじゃないので捨て置いた。どうにかドロモカの身を隠す場所を見つけるか、ドロマーたちの帰還を遅らせるかしないとならない。
手間隙や労力という観点で言えばドロモカの潜伏先を見つけるのが現実的か。幸いにもメロディア達は城下町の食堂を使うので、森の自宅は他の八英女に対しての盲点になり得る。半壊している家に住まわせるのは少々気が引けたが、今から急ピッチで修理をすれば雨風を凌げるくらいの設備は整えられるはず。
メロディアがその場しのぎのアイデアを口にすると、反応を示したのはシオーナであった。
「そう言うことでしたら私に考えがあります」
「どういうことですか?」
「ドロモカの回収した下半身を私に繋ぎ、完全な状態にする。そうすれば機動力が元に戻るから私が伝令を買って出る」
「なるほど。確か改造されたシオーナ様には飛行能力が付与されていましたか」
「本当ですか? 飛んでいけるならだいぶ早くに合流できますね」
「如何でしょうか?」
「考えている時間がもったいないです。すぐに行動に移しましょう」
そう言ってドロモカからレッグパーツを受け取ったメロディアは損傷具合や接合の仕組みなどを大急ぎで調べ始めた。
幸いにも問題なく起動できることを確かめると上半身と下半身を同機させた。先にティパンニで接続を経験していたこともあってか、一回目よりも幾分スマートに繋ぐことができた。
ようやく完璧な状態で復活できたシオーナは跳んだり跳ねたり、屈伸したり延びをしたりおっぱいを揉んだりして機能性を確認していた。
「問題ない」
「最後の確認、いらねーだろ」
「いや、乳房には多用なシステムと制御装置と夢が詰まっているから」
「大丈夫なようなら、さっさと伝令をお願いします」
「了解」
シオーナはぐぐっと胸を張ると背中から八本の軸を出す。二本で一対のその軸は組み合わさって青白い光の皮膜を作った。ド派手な演出と共に機械的でSFチックな翼を作った彼女は同じように演出染みて中へ浮かび上がった。案外こういうのが好きなタイプかもしれない。
そして神々しい様相を保ちながら聞いてきた。
「ほら、男の子ってこういうのが好きなんでしょう?」
正直、ロボットにはあまり魅力を感じない系男子だったメロディアは返事に困った。しかし機嫌を損ねては元も子もないと思い、大人しく乗っかった。
「ああ、はい。格好いいです。あれですよね? エヴァ○ゲリオン的な?」
と、安易な気持ちで放った一言が引き金となってまさかの説教が始まった。
「全然違う!」
「そもそもエヴァはロボットではありません!」
「え? でも監督がエヴァはロボットアニメって公言したらしいですよ」
「「は?」」
20年あまりも封印されていたから知らなかったのかも知れないけれど。
するとシオーナ元よりドロモカもエヴァや他のロボットアニメについてこんこんと語り始め、しまいには男子足るもの嘘でもいいから見ないといけないと人生までを説かれてしまう。その熱弁ぶりに、悪より抜け出しても母親に火をつけられたオタク心は変えられないんだなと実感していた。
悪堕ちよりもオタク堕ちの方が業が深いのかも知れない。
やがて二人の熱が収まった頃、メロディアは伝達をシオーナへ任せてドロモカと二人で森の自宅に向かった。
するとその道中、しんみりとした声でドロモカが話しかけてきた。顔は相変わらずの無表情ではあったが。
「つい熱が出てしまいました。申し訳ありません」
「いえ。好きな物を語るときはそうなりますから。それに何より堕ちていない八英女とお話ができるなんて夢のようです」
「堕ちていないと言うと語弊がありますが…」
「もし良ければ昔の話を聞かせて貰えませんか?」
「…構いませんが、難しいですね」
「え?」
「私はかつてメロディア様の母君を殺そうとしていましたし、父君であるスコア様には少なくない恋心を抱いておりましたので」
「…」
お、重い。言われてみれば確かに茶化しでもしなければ語れない内容かも知れない。
メロディアと八英女の関係はそもそもからして微妙なものだ。
かつての八英女全員から敵視されていた魔王と八英女全員が恋心を抱かれていた勇者との間に出来た子。複雑な情念を持って然るべき相手であることは否定できない。
そうなると…悪堕ちしていてくれたからこそ、あの7人とはチグハグながらも一緒に行動ができていたのかも知れない。そう思うとあの別れ際の煽りはやりすぎたかもなぁ。後できちんとお詫びをしないと。
それからは森の家に着くまでお互いが黙ったままになってしまっていた。
特に防護措置を施しもしていなかったせいか、雨風に晒されて更に朽ちたような印象を持つ。
「これがスコア様と魔王の愛の巣ですか」
そう聞こえるか聞こえないかの声でドロモカは呟いた。本人の無表情さが相まってヤンデレのように見えたが、メロディアは敢えて言及はしなかった。
二人でざっと家の様子を再確認する。地下の備蓄庫は無事であり、一階部分の掃除と半壊した二階以上の部分を撤去、補強をすれば居住スペースとして使えそうだ。元々この備蓄庫はメロディアが幼い頃に、野良試合を申し出てくる冒険者の脅威から避難するために作られた経緯がある。使ってこそいないが、緊急避難所としては十分に機能するだろう。
「では作業を始めましょう」
「はい。承知しました」
二人はいそいそと掃除や補強作業に着手する。普通なら瓦礫や木材を運び出すだけでも一苦労だが、不幸中の幸いか二人は普通の女子供ではなかった。
黙々と仕事をするのは二人にとっては幸いだった。ドロモカは元々寡黙に属するタイプであるし、メロディアも一人でいる時間が多いせいでとかく仕事や作業の時にお喋りはしたくないと思ってる。
そもそも二人とも話題に困っていた。
しかし、その甲斐あってか短時間とは思えぬ程に居住スペースを確保する事が叶ったのだ。
「これならしばらくは、どうにかできそうです」
「ただ…本当にすみません。八英女の一人であるドロモカさんをこんなところに」
「構いません。再び悪堕ちしてしまっては元も子もありませんから」
「なら」
「え?」
「なら、せめて美味しい物を用意します! ドロモカさんの好物は何ですか?」
「えっと…」
「何でもいいので仰ってください」
「私は…肉料理が好きです」
「お肉ですね。任してください!」
「え? め、メロディア様?」
とドロモカが制止するのも空しくメロディアは森の中に消えていった。
料理と食べ物の事になると人が変わることを知らなかったドロモカはただ呆然と背中を見送るしかできなかった。
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