10-1
お待たせしました。最後の八英女の登場までお送りします。
「まず前提として、今から僕は皆さんの事を信用します」
「はい?」
メロディアの突拍子もない言葉に全員が頭に?を浮かべた。それをさておいてメロディアは自分の計画の続きを話す。
「僕は所謂ところの瞬間移動のようなことができます」
「て、テレポーテーションができると!?」
「ええ。ここからクラッシコ王国の城下町であれば何とか範囲内には収まっていますから、それでギャングを追おうかと」
「…」
魔法に特に精通しているファリカとソルカナは唖然とした。一応、理論しては確立していることは知っていたが、それは例えば右足が沈む前に左足を出せば水の上を歩けるというような暴論にも似た空論だと思っていたからだ。
それを可能と断言した上に、移動範囲もかなり広い。驚く以外の反応ができなくても無理はなかった。
すると、事の凄さを今一つ理解していないレイディアントが聞き返す。
「それで? それが信用とどう繋がるのだ?」
「ただでさえ労力がかかる魔法ですので、同行者は頑張っても一人。探知を考えるとシオーナさんを連れていくことは確定です。と言うことは、残りの皆さんとは一旦離れる必要があります」
「…なるほど。そう言うことか」
「僕の両親と会うのは目的の一つでしょうから、皆さんは黙っててもクラッシコ王国の城下町へ来るでしょう。けれどその道中で悪さを働いたところで、僕は分かりません」
「うふふ」
「もしくは六人で結託して、直接父さん達を探しに行くことだってできるでしょう。道々の人たちを堕落させてね」
その一言で皆の魔族しての気配が濃くなるのを感じた。良からぬ事を夢想したことで、全員からうっかりと魔力が漏れ出てしまったのだろう。実際、何人かはいやらしい笑みを浮かべては「うへへへ」と下品な笑い声までだしている。
しかし、メロディアはそれを容易く打ち消した。
「ま、そんなことはしないでしょうけど」
「あはっ。随分と買ってもらえてるんだね」
「正直、ほんの少し前までは多少の時間のロスを考えてでも全員で移動しようと思ってました」
途端に七人の顔色が不思議そうなものに変わった。
同時に何だか雲行きが怪しくなったような気配を感じもしたが、どうにも止めることはできなかったのだ。
「おや? ではなんで信用しようと?」
「…さっき僕の仕草に父さんを重ねたからですよ」
「え?」
「話を聞く限り、母さんを心酔して反対に父さんには果てしない憎悪を持っているのかと思ってましたけど、どうやらそうでもないらしいですし」
「ど、どうしてそう思うんです?」
「僕に父さんを…勇者スコアを重ねたとき、皆さんは気がついていないでしょうけど、びっくりするくらい雰囲気が穏やかになりました。だから思ったんですよ、僕に拒絶されるよりも、母さんに拒絶されるよりも、皆さんは勇者スコアに否定されることを何よりも恐れている」
「…」
「魔界から出てきて、勇者スコアは結婚して子供を作ったと聞かされた後は全員が自棄になっていたんじゃないですか? 後先考えずに僕を殺そうとするくらいにね。けど落ち着いてある程度の事情を理解した今なら勇者スコアが悲しむような事はしないはずだ…というのが僕の推察です。もちろん、本当に信じてもいますよ。かつての八英女としての片鱗くらいは残ってるって」
七人は言葉を失った。言いたいことがない訳じゃない。むしろ逆に口を開けば決壊したダムのように言の葉が溢れ出ることは分かりきっていた。それでもどす黒く、それでいて純粋にも取れるような正体不明な感情が邪魔をして、口をつぐむ以外の選択肢が取れなかったのだ。
そうこうしているうちに帰り支度を済ませたメロディアは上半身ばかりのシオーナを小脇に抱えると、件の瞬間移動用の魔法を発動した。細く青白い光の紐のように体がほつれては消えていく。
やがて顔が無くなるかどうかと言うタイミングでメロディアは最後の一言を述べた。
「それじゃあ、城下町のあの店で待ってますから」
その言葉を最後に部屋の中からメロディアとシオーナの気配が消えた。
暫く経っても六人は喋るどころか動くこともままならなかった。それだけメロディアの言葉が衝撃的すぎたのだ。それでもミリーの怒りの籠った舌打ちが静寂を打ち砕いた。すると皆は今までの静けさを払拭するかのように、立て続けに喋りだしたのだ。
ふんだんにメロディアへの怨嗟を込めて。
「っち。好き勝手に本当のことを言いやがって、クソガキが」
「ですわね。あまりにも的確な事を言われてイラっときてしまいましたわ」
「情に訴えてボクらをコントロールする気ですよ、ムカつきますね。その通りなんですけど」
「逃げ道のない正論で迫られると、ついつい殺したくなってしまうな」
「ヤバ~。こんなに癇に障るオスガキもいるだね。ショタコン止めよっかなあ」
「本当に搾り殺したくなるガキですね、あの子は…けど、仕方ないじゃないですか」
ドロマーは力なくベットに腰かけると、天井を見上げながら遠い目になった。そして不思議と柔和な笑みを浮かべると、郷愁が溢れ出たような実に沁々とした声音で呟く。
「魔に堕ちようとも愛し続けたい人がいるなんて…そんな運命的な出会いをメロディア君はまだ知らないでしょうから」
そしてふうっと一つため息を吐く。
「大人の女性として、あの子の思惑に乗っかってあげることにしましょう」
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