9-2
地下街? と一瞬不穏な気配を感じたが、潜伏するとしたら候補としてはあり得るような気がする。土地勘がないものには迷路と言って差し支えないからだ。
どこかの店か通路。もしくは表にはない裏のルートにでも身を隠しているのだろう。メロディアはそんな予測を立てた。
だからこそだろう。メロディアは拍子抜けする思いだった。ソルカナが立ち止まった場所が予想の斜め上過ぎたのだ。
ソルカナはこういった地下街によくあるコインロッカーを指差して言う。
「こちらです」
「え? こちらって?」
「このコインロッカーの中にシオーナさんがいらっしゃいますわ」
「…はい?」
まるで意味が分からないメロディアに向かってソルカナはロッカーキーを差し出してくる。反射的にそれを受け取ったメロディアはぐるぐると思考を回転させる。
え? 何? どういうこと? このコインロッカーの中にシオーナさんがいるって…鞄が一個入るくらいの小さなロッカーだぞ?
この中に入るってどんだけ小さいんだよ…あ、もしかして『小人化』とか『シュリンカー』になってるって事か? 気がつくとそれ以外の発想が思い浮かばない。そうでなければこのサイズのロッカーに入るのは不可能だろう。
メロディアはキーを差し込むと恐る恐る扉を開けた。中に小さなシオーナがいることを期待して。しかし現実はそんなことはない。
中にあったのはシオーナと思わしき女の生首だったのだ。
メロディアはビックリして、思わずコインロッカーのドアを閉めてしまいました。
きっと今のは何かの見間違いであろうと思い直し、再びコインロッカーを開けると、そこにシオーナの生首が白目を向いていたのです。
メロディアは思わずドアを閉めましたが、きっと疲れていて見えもしないものを見てしまったのだと思い直し、覚悟を決めて、改めてコインロッカーを開けました。
するとそこには、シオーナの生首が白目を向いて、ほのかにほくそ笑んでいるのです。
メロディアはビックリして、コインロッカーのドアを閉めましたが、きっと幻覚を見たに違いない、最近あまり寝てないから、見えもしないものが見えてしまったのだと思い直し、コインロッカーを開けました。するとそこには、白目を向いた生首が入っていたのです。
驚いたメロディアは、気がつけばコインロッカーの扉を閉めていましたが、気のせいだと思い直し、再びドアを開けるとやっぱり白目を向いた生首がほのかに笑っているのです。
思わず扉を閉めてしまいましたが、きっと幻覚に違いありません。最近寝てなかったからと思い直し冷蔵…じゃなくてコインロッカーを開けると、やっぱりシオーナの生首が入っているのです。思わずコインロッカーを閉めたメロディアでしたが、これは何かの間違いに違いない。疲れているから見えもしない物が見えたのだと思い直し、コインロッカーを開けると、そこにはなんと白目を向いた生首が。
うわっと思いコインロッカーを閉めましたが、きっと疲れのせいで幻覚を見たに違いないと自分に言い聞かせ、再びコインロッカーを開けるとなんとシオーナの生首が白目を向きながら笑っているのです。
思わずコインロッカーの扉を閉めましたが、きっと気のせいで、何かと見間違えをしたのだと自分に言い聞かせ、扉を開け直すと、なんとそこにはシオーナの生首が白目を向いて笑っていたのです。
「もういいよ!!」
そう言ってメロディアは盛大にロッカーの扉を閉めた。そして鬼気迫る顔でソルカナに尋ねる。
「な、なんですか、あれは!?」
「シオーナさんです」
「シオーナさんですって…し、死んでるんですか?」
「いえ。生きていますよ」
「で、でも首だけしか」
「シオーナさんは魔界での戦いの末、勝ち目がないと悟った瞬間に切腹をなされたんです。しかし魔王軍はそんな彼女の尊厳を踏みにじっては、すぐさま治療とは名ばかりの『人体改造』を彼女に施しました。ですから、あのような首だけの状態になっても生命維持はできていますわ」
「か、改造…?」
つまりはサイボーグみたいなものか。なるほど、それならある程度は納得できる。が、同時に問題も発生する。
「それは分かりましたけど…じゃあシオーナさんの体は?」
「…行方不明なんです。本人曰く、こちらの世界で魔力供給が疎かになり機能停止になったらしくて。わたくし達が見つけたときには既に頭だけの状態でしたわ」
「本人曰く? 喋れるんですか? この状態で?」
ソルカナはこくんっと頷く。
そう聞かされたメロディアは再びロッカーを開けると、そうっとシオーナの生首を取り出した。人が疎らな時間で本当に助かったとしみじみ思っている。
「シオーナさん…?」
「…何?」
「うお!? びっくりした!」
「それはこちらの台詞。ソルカナかラーダだと思っていたら、まるで違う。あなたは誰?」
「あ、初めまして。メロディアと言います。」
なんだろう。文字通り機械的な会話をする人だ。昔からこうなのか、それとも改造手術の影響なのか。どちらにせよ意思疎通ができるから良しとしよう。
「メロディア…記録した。けれど情報が不足している。あなたは何者?」
「勇者スコアと魔王ソルディダはご存知ですよね?」
「無論」
「僕はその二人の息子です」
…。
間が生まれた。シオーナは顔色一つ変えないが告げられた事実は余程衝撃的だったらしく、やがてキュィィィィという高い音をどこからか出す。すると耳の辺りから白い煙を上げた。
「ヤバい! 処理落ちして熱暴走を!?」
メロディアはすぐさま氷結の魔法を使ってシオーナの事を冷やし始めたのだった。そしてシオーナを小脇に抱えたメロディアはどこか落ち着いて話のできる場所を求めて歩き始める。すると地下街の隅の隅にイートインスペースを見つけると、これ幸いとそこで屯することにした。
そしてテーブルの上にシオーナの首を置くと、結界を張った。これには人払いの意味ともう一つ、このイートインスペースを魔力で満たすと言う二つの意味があった。頭部の構造から見ても魔力をエネルギー源にしていることは明白だ。十二分な力を与えてやれば、勝手に目覚めるはず。メロディア達は椅子に腰を掛けて、彼女の機能が再起動するのを待っていた。
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