7-12
「ドロマーに…ミリー?」
「ファリカと…え? レイディアント……?」
「久しぶりだな、二人とも」
「え? あれ? なんで?」
「やっば。頭ぐわんぐわんする~。てかここどこ? アタイ達、森の中で男の子に襲われて…」
「襲ってねえよ。むしろ襲ってきたのそっちだろ」
思わずメロディアが口を挟む。するとソルカナとラーダは素早く臨戦態勢を取った。
「こ、この子!?」
「なんでドロマー達と!?」
「二人とも少し落ち着いてください。私から訳を話しますから」
意識ははっきりしても事情がさっぱりのみ込めない二人は混乱をにじみ出させる。一同は説明をドロマーに任せてしばらく黙って見守ることにした。しかし、やはり面白がってかメロディアがスコアと魔王との間にできた子供であることは伏せ、行方知れずだったレイディアントを含め、自分達のこれまでの経緯と全員がことごとく返り討ちにあって店の手伝いをしていることを告げていた。
そしてこのティパンニの町にいるのも偶然ではなく、二人を捕らえるためにわざわざやって来たということも伝える。
二人は開いた口が塞がらない、という言葉を体現するかのように恐る恐るメロディアを見た。重要なのはそんな些細なことではなく、自分達も含めて既に【八英女】の半数以上がたった一人の少年にやられてしまっているという事実の方だ。
ドロマーはそんな二人を見てしたり顔で笑う。すると、とんとんとメロディアの肩を叩き言った。
「それではメロディア君。何故そうも簡単に私達を手込めにできたのか、その理由をどうぞ」
「手込めにした覚えは一向にない」
と、一応の釈明を挟み咳払いを一つした。そうしてベットの上の二人を見て真実を語る。
「先程も言いましたけど僕は正真正銘、勇者スコアの息子です。それと同時に母親は魔王ソルディタ・ディ・トーノ。つまりは勇者と魔王の子供です」
…。
間があった。
ソルカナもラーダもメロディアの言葉は理解できているが、それを胃の腑に落とし込むまで時間を要したのだ。そしてその反動とも言えるような大きな声で自らの驚愕ぶりをこれでもかと表現した。
「「「えええええっっっ!!??!!?」」」
それと同時にメロディアとレイディアントも絶叫した。
「「うわああぁああぁぁぁ!!!?!?」」
何故、メロディアとレイディアントの二人が叫んだのか。
それはソルカナの股間からセピア色のソルカナが顔だけを出現させて同じように叫んでいたからだ。中途半端な出産のような出で立ちになったソルカナには奇妙で不気味以外の感想は抱けない。
「き、貴様は魑魅魍魎の類いか!?」
あまりの事にレイディアントは殺気を放ち、今にも襲いかからんとする勢いで言った。ソルカナ達はそれをあしらいながら奇怪な会話を始める。
「ダメじゃない、出てきちゃ」
「悪ぃ。オレもビビりすぎて」
「戻ってちょうだい」
ソルカナは股間から逆さまに出ているセピアソルカナの頭を持つと、まるで何かのスイッチのように自分の体の中に押し込む。「あんっ」という艶やかな声と共にソルカナは再びお腹を膨らました。
そして何事もなかったかのように振る舞う。
「勇者様と魔王様のお子だなんて衝撃的です」
「それはこっちの台詞だ!」
「貴様こそ事情を説明しろ!」
「ああ、それもそうですね」
座り心地が悪かったのかソルカナはベットの上で体勢を直すとメロディア達の要望通り、自分の身に降りかかった事情を話し始めたのだった。
「わたくしの母体たる世界樹はあらゆる草木の始祖であるということはご存知でしょう?」
「当たり前だ」
「『世界樹の種子が風に乗りこの世界をあまねく緑萌ゆる大地に変えた』。子供でも知ってる常識ですよ」
「ええ。それは事実ですから。では、その始まりの種子は魔界にも到達していたと言ってご理解頂けますか?」
「「…ん?」」
メロディアとレイディアントは何やら目から鱗のようなものが落ちたような気分になった。そしてあのセピア色のソルカナについて、一つの予感めいたものを持つ。
ソルカナは朗らかに話を続けた。
「魔界に到達したわたくしの始まりの種子は、根を伸ばすにつれ魔力を浴びて水の代わりに血を吸って育ちました。そして魔界の生存競争を生き抜くため、人間界とは異なる進化を遂げ今に至る…そしてこちらの世界に世界樹が存在するように、魔界にも根幹たる樹木が存在している。当然、元を正せばわたくしと同じ世界樹の精霊です」
「つまり、あのセピア色のソルカナとは血を分けた姉妹のようなもので、魔界で再会を果たしたと?」
「…その際に母さんが一手間加えてソルカナさんに【憑依】させた、といった具合でしょうか」
「はい。左様です」
「なるほど。見た目や気配は一緒なのに、妙に鬱屈しているのはそのせいですか」
「そこまではいい。話としての道理はわかる…が、その分身たるもう一人の貴様が腹の中にいる理由はなんだ?」
「本当は逆だったんです」
「逆?」
言葉の意味がわかりかねたメロディアとレイディアントは、ソルカナの言葉をおうむ返しに聞き返す。
「魔界にてもう一人のわたくしに【憑依】された段階で、わたくし本人の人格と意識と自我の一部は子宮に閉じ込められたんです」
「はい?」
「なんのために…?」
話がどんどんと理解不能になっていく二人を他所に、ドロマー達は合いの手を入れてくる。
「そりゃソルカナ本人の人格を辱しめるためにだろ」
「ええ。憑依されたことで聖女たるソルカナさんは、本能に忠実なエロ人形にさせられた。それを体の中から実感させられるという、ボクには思い付きもしない魔王様ならではのとても理にかなった責め方です」
「理にかなってはおらん!」
「人格排泄というジャンルはありますけど、人格妊娠は斬新でしたねぇ」
「しみじみしながら言うことじゃないだろ!」
頭を抱えたくなってきた二人に向かってソルカナはさらに説明を続ける。
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