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魔王を倒した勇者の息子に復讐をする悪堕ちヒロイン達  作者: 音喜多子平
堕ちたドルイド と 堕ちた射手
111/163

7-8

「え? あ、どうも」

「ちょっとお伺いしたいことがありまして」

「な、んでしょうか?」

「宗教に興味ありません?」


 精々道を尋ねられる程度だと思っていた男は同様を露にした。そしてすぐさま関わってはいけないタイプの人間だと判断したのか、慌ててその場を立ち去ろうとした。


 しかし、それは叶わなかった。


 ソルカナが男の手を掴んだからだ。中年の男は改めてソルカナの大きさに臆し、「ひっ」と短い悲鳴を出した。無理もない。傍目に見ていても大人と子供くらいの対格差があるのだから。


「お待ちになって」

「いや、あの」

「怖がらせてしまってごめんなさい。お話を聞いていただきたいのです」

「ま、間に合ってます」

「そう仰らないで」


 するとソルカナは男の顔にふうっと吐息を吹きかかけた。甘ったるい花の蜜の匂いがメロディアの元にまで届く。それはふんだんに魔力を帯びており、まともに吹き掛けられた男はいきなり酔っぱらったかのように足取りが覚束なくなってしまった。


 どっからどうみても催眠術だな。


「は、れ?」

「うふふ。こんな夜遅くに帰るほどお仕事がお忙しいのですね」

「…そう、なんです。もう一月くらい休みもなくって」

「まあまあ、お可哀想。ひどい職場なのですね。それとも上司の方のせいでしょうか?」

「両方、ですかね。ははは…」

「こんなに頑張っていらっしゃる方が報われないなんて、おかしい世の中ですわ」

「そう思って頂けますか? そう言って頂けますか…?」


 男は感情も高ぶらされているのか、涙声になってソルカナの手を強く握った。


「ええ…けれど。あなたが報われずお辛い思いをしているのには訳があるのです」

「…訳?」

「それは他人の為に生きることに囚われるあまり、自分の欲望を抑えてしまっているから」

「…」

「私達『新生ワルトトゥリ教』にご興味はありませんこと? 難しいことなんて何一つありません。自分の欲望の声をお聞きなさい。あなたはどうしたいのですか?」

「お、お、俺は…」


 男の様子が徐々に狂っていく。それを見るとソルカナは満足そうに暗い笑みを浮かべた。そしてわざと衣服をはだけさせて、際どい下着姿を露にした。その姿を見たことで、メロディアはやはり妊娠しているのだということを確信した。


 ソルカナは続ける。


「うふふ。例えばホラ。目の前にこんな無防備な女がいるんですよ? 男性としてアナタが成すべきことはお分かりでしょう」

「あ、あ、ああ」


 男は虚ろになりながら自分の頭と同じくらいに大きい乳房を鷲掴みにした。よほど柔らかいのか、男の指が簡単に胸の形を押し潰して変えていく。


「お上手ですわ。結婚しているとか、社会的責任があるとか、そんなつまらないことは忘れてしまいなさい。人は世界樹の名の元、もっと淫らに生きていいのですから」

「うひ、ひひひひひ」


 …。


 なんだか雲行きが怪しい。あの人の様子は普通じゃなくなっている。もう『蜘蛛籠手のラーダ』がどうとか言っている場合じゃない。助けないと…!


 メロディアは飛び出して無理から割って入ろうとした。しかし、その前にソルカナ達に声をかけた集団があった。


「おい! そこのお前!」

「ようやく見つけたぜ!」

「…あら?」

「動くな! 変態デカ妊婦露出狂シスター!」

「無理に特徴を全部言わなくてもいい!」

「お前を騎士団に連行する。怪我をしたくないなら大人しく捕まれ」


 見ればメロディアに捜査協力を願い出てきたサトウが所属するアレグロ自警団の面々がソルカナを円形に包囲し始めたところだった。情報提供がアレグロ自警団のメンバーからだったので、よくよく考えれば彼らも自らの矜持のために血眼になって例の二人組を探していたとしても何ら不思議はない。


 ただ自警団は騎士団と違って腕っぷしさえあれば他の素行には目をつぶる場合が多い。端的に言えばごろつきと思われても仕方がないような面子が結構いる。これじゃ妊婦を襲おうとしている悪漢集団と言われても仕方がない。


 するとその時、メロディアの中に名案が浮かんだ。容易くソルカナに近づき、ラーダを誘き出せる作戦だ。だがソレを実行するとなるとチャンスは今しかない。つまりは躊躇している暇すらないということ。


 メロディアは自分の直感を信じて柵の向こう側から飛び出した。


「待てっ!」


 これでもかと大きな声を出し、メロディアはその場の全員を牽制する。流石に予想外だったのか警団の面々はもとより、ソルカナも鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして突如現れた謎の少年ことメロディアを見た。


 料理用の三角巾で顔を隠していたせいか、何度か会ったことのある自警団もそれがメロディアだとは誰も気がつかない。


「こんな夜更けの公園で夫婦を襲うなんて! しかも奥さんの方は妊娠しているじゃないか。お腹の子に何かあったらどうするんだ!」


 そう言われて全員が固まっていた。自警団の団員達はまさか自分らが悪漢に仕立て上げられているとは思わず、メロディアの言葉を理解するのに数秒を要した。そして理解が及ぶと弁明の声を上げる。


「ち、違う! 俺たちは自警団だ!」

「そうだ! 近頃出没する変態女を探していただけだ!」

「言い訳無用!」


 メロディアは目にも止まらぬ早さで近くにいた自警団の二、三人に打撃を浴びせてなぎ倒した。子供と侮っていた全員がまさかの事態に混乱を露にする。


「こっちです。来てください」


 そしてその混乱に乗じてソルカナと中年男の手を引き、公園の中にあった雑木林の中に姿を眩ましたのだった。


読んで頂きありがとうございます。


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