第九話
君と再会したのは、それからまた一年が過ぎた……二十四の歳。
寂しい秋風の吹く、黄昏の時だった。
叔父と違い、弱者に親切にすることに努めてきた私の町での評判は、その一年の間にあっという間に、自分でも面白いくらいに素晴らしいものになっていた。
だから顔を隠し、人目を忍んでやってきた下町は……君と初めて出会った時と同じく、暗く陰気で、貧しさに溢れていた。
品の悪い安酒場と、軒を連ねる売春宿。途中、何人もの娼婦に声をかけられながら、私は君の姿を求めて彷徨った。
見つけるのは大して難しいことじゃなかった。
いわゆる同性愛の趣向を持ったものたちが多く集うというその酒場。入ってみると、なんてことはない。あんなに求め、焦がれ……会いたいと願っていた君の姿は、拍子抜けするほどあっさりと私の視界に映りこんできた。
艶やかな、黒い蝶のような君。
スラリとした細い体に……普通ならば悪趣味としかいいようのない黒いビロードのドレスが、しかし君には吐き気がするほどによく似合っていたね。
女のように長く伸ばした、腰まで届くその漆黒の髪。不健康そうな肌の蒼白さは、昔と少しも変わりがなかった。形のよい唇ばかりが赤く濡れて……君は魔物のように美しく微笑んで、見知らぬ男にキスをしていた。けれどその漆黒の瞳は、悲しみと自虐の色に冷めて……人形のようにただ空を映すばかりで、私がそこにいることになど、全く気づいてはくれなかった。
マスターに問うと、君は大層な売れっ子だそうで……まあ、その美貌ならば無理もないだろうが、一週間も先まで予約がいっぱいになっていた。私は一週間後に君を買う予約をし、御丁寧に前金まで払って、そしてその日は別の少年を買うことにしたのだよ。
豊かな金の巻き毛の、蒼い瞳の少年。
君と比べるにはあまりにも平凡過ぎる顔立ちの少年。似ているところなど表面的な色合い程度しかなかったが、その少年は何故か私の幼い頃を思い起こさせた。
今は亡き叔父の、私への仕打ち。
虐待に慣れ、罪を罪とも感じなくなった私の心。
凍り付いてしまったそれは、痛みさえ忘れてしまった。
おそらくこの少年も似たり寄ったりの理由で良心を無くし、ここへやって来たに違いない。
いちいち名前など問わなかったが、ひどく貧相な体つきのその少年が、なんだかただの他人だとは思えず、できるだけ優しく愛してやって、料金とは別にこっそり金を渡してやった。彼はひどく感激した様子で、あまり大きくもない目から止めど無く涙を溢れさせながら、まるで神様でも見るようにして、私に何度も礼をいったよ。お世辞にも美しいといえる子ではなかったから、多分きっと……君とは違った苦労を、していたのだろうね。