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紅 闇  作者: レエ
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第四話

「医者にはかかっていないのか?」

「診てもらうお金なんて、無いよ」

 君の返事を聞いて、なるほど、そうだろうなと納得した。

 私は頷いて、それからふと思いたってこう君に提案したのだったね。

「……私が診てあげようか?」

「え?」

「私が医者に、見えないか?」

 君が天使の衣と間違えた、この白衣を見て。

 そんな私の問いに、しかし君は困ったように苦笑して、頭を左右に振った。

「お医者さまなんて……見たこともない。あんた、お医者さまなの?」

 その言葉に、今度は私が苦笑させられた。

「まだ卵だけれどね。それでもよければ、診てあげよう。……もちろん、無料で」

「ホントに?」

 見開かれる、瞳。

 このとき君の瞳に宿った強い希望の光を……私は心の底から美しいと感じた。

「ああ」

「でもなんで……そんなに親切にしてくれるの?」

 戸惑いがちな警戒心も、私にはひどく可愛らしく思えた。

「君の祈りが、神に通じたのだとは考えないのか?」

 そう問いながらも、私は神など信じていなかった。

「私は天使ではない。が、ここで逢ったのも何かの縁。これが神の導きならば、私としても、応えぬわけにはいかないだろう」

 そう言いながらも、私は神など信じていなかった。

 ただ、ほんの少しだけ、君に興味が沸いたから。

 こんな汚い路地裏の教会で、こんなに綺麗な人に出会うとは、思っても見なかったから。

 もう少し、一緒にいたいと思ったから。

 それが本当の理由だった。

「救えるとは限らない」

 と、私は言った。

「それでも、いいか?」

 君は一瞬惚けたように目を見開き、それから目いっぱい頷いたね。

 飛びついてくる、細い体。発育の悪い、痩せた弱々しい体に、だが君は溢れんばかりの生命の輝きを宿していた。

「ありがとう……こっちだよ!」

 そう言って、私の手を取り、走り出した君が眩しかった。

 もし本当に天使というものが存在するのなら、それは君のようなもののことを言うのだろうと私は思った。

 闇と同じ色をした、揺れる漆黒の髪。

 それでも君は光を放っているかのようで、私は思わず目を細めた。

 もう、自分では失ってしまったその輝きが……私の目には、眩しすぎたのかもしれない。


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