最終話
元々病弱だったローラを、病死に見せかけて始末するのは容易かった。しかし、彼女を私の情婦だと信じていた君は、懸命に彼女の看護を手伝ってくれたね。
弟妹の死を知り、君は嘆き悲しんだ。
せめて様子を見に戻りたいという君を引き止めるのに、彼女は実に役に立ってくれた。弟妹のためとはいえ、目の前で苦しんでいる人間を放っていけるような、君はそんな人間ではなかったから。
だが、ローラの死と入れ替わりのように、君の身体に異変が現れた。
「職業病ってヤツだね」
赤く発疹の現れた身体を見ながら、君は何故か明るく笑って見せた。
「すぐに死に至る病ではない」
そう告げると同時に、助ける手立てがないことも告げる。
「大切な友人も救えず、私は何のための医者なのだろう」
頭を抱える私に君は言った。
「そんなことないよ、あんたはいつも俺を救ってくれた。今だって、そうだよ」
あんたが傍にいてくれるから、死を迎えるのも恐ろしくない。
君はそう言って、いつまでも楽しげに笑っていた。
次の日も、その次の日も……寝たきりになっても、君はいつも微笑んでいた。私に告げる言葉は、いつも感謝のそればかりで……。
一年後。
高熱に苦しみながら、君は逝った。最期の時まで、私に礼を言いながら。
病の苦しみにやつれ果てていても、君はとても美しかった。
何故、こんなことになってしまったのだろう。
あんなにも愛した君の微笑みは、もう二度と戻らない。
初めて出会った日のように、私の手を取って走ることもない。
くだらない話をして笑いあった、その声ももう聞けない。
そこにあるのはただ君の抜け殻だけで、私の愛したものの全ては失われてしまった。
もう永遠に戻らない。
昨日までの日は、永遠に還らない。
もう、ここには何もない。
何もかも……私の世界は消えてしまった。
何故、涙が流れてこなかったのだろう。
何故、心はこんなにも空虚だったのか。
窓から差し込んでくる光だけがやけに眩しかった。
まるで天からの使者が、君を迎えに来たかのように見えた。
そうだ、君を弔わなければ。
君は君の住むにふさわしい世界へ行かなければならない。
君のために墓を立てよう。
一点の曇りもない純白の石で。
淡い桃色の花が風に揺られて散っていく。
君のために、私がしてあげられる最初で最後の仕事は終わった。
長い話を聞いてくれてありがとう。
これで、永遠に───サヨナラだ。
君は天へ、私は地へ……二度と巡り合うことのないように。
神よ、我らを永久に、引き裂きたまえ……。
銃口をこめかみに当て、引き金を引く。
一瞬、鮮烈な紅が見えた気がした。
赤い……
ああ、暗い。
暗い。
クラ、イ……。
マリリン・マンソンのアルバム「Holy Wood」を大音量で聞きながらUP(予約投稿設定だけど)しました。おススメです。