第十四話
君にしてはなかなか冴えた意見だったが、私は別に寂しかったわけではない。ただ単に、心が歪んでいただけなのだよ。
「優しいのだな。だが、これは性格の問題だ。上手く笑えないのかもしれないが……私は、幸せだし、君といて楽しいと思っているよ」
「そういうことは、説明しないでもいいんだよ」
「……そうか、そうだな」
「あはは。あんたって、昔から時々変だよな」
「時々?いつもの間違いじゃないのか?」
「なんだ、自覚してたのか?せっかく言わないでやろうと思ったのに」
楽しい。
君といるのは、楽しかった。
たとえどんな状況でも……君と一緒に笑っていられるだけで、私の心は温かいものに包まれた。
安らぎだった。
君といる時だけ、本当に穏やかな気持ちになれた。
「……もう休みなさい」
私の手を握ったまま、ウトウトと目の閉じかけている君に、私はそう声をかけた。
「ん……まだ、おきてる」
「いいから、休みなさい。目が覚めるまで、ここに居るから」
「でも……」
「私のために、目に隈などつくって欲しくはないのだよ」
「それは、あんたのせいじゃ……」
「私は気にする。ここに来たことを、後悔させないでくれ」
「……わかった。眠るよ」
「いい子だ」
「子供扱いすんな。……あんたも、一緒に休んだら?」
「いや……」
「狭いし、あんまり綺麗なベッドじゃないけど、借りにも客のあんたを床に寝させるわけにはいかないよ」
「私は、起きているからいい」
「俺のために、目に隈なんかつくって欲しくないんだよ」
「まったく……わかった、降参する」
「いいこだ。へへっ」
その夜は数年ぶりに、君と二人並んで眠った。
泊まっていってくれとせがまれて……そんなことをせがまれては本当は迷惑なはずなのに、快く承諾している自分がいた。こんなにも、君のことしか見えない私に……君を傍らに眠る一時の安らぎを、どうして拒むことなどできただろうか。
知り合ったばかりの頃、まだホンの子供だった君はあまり寝相のよいほうではなくて、私はよく蹴り起されて、苦笑いしたものだった。翌日、帰宅と同時に叔父に怒鳴りつけられ、ひどい折檻を受けることがわかっていても、いつも私は君の望むままに……そして自らの望むままに、このささやかな安らぎの時をいつも拒めずにきたのではないか。
懐かしい。
懐かしすぎて……なんだか泣けてくるじゃないか。
ねえ?
私はこんなにも必死に、あの日々を追って生きてきたのに。
いつか、きっと取り戻せると思っていたのに。
確かに、取り戻せたと思ったのに。
これでもう……あの淡く輝くような日々は二度と取り戻せはしないないのだな。
あの幸せだった瞬間が……
淡くぼやけて、消えてゆく。
少し泣いてもいいかな?
こんな顔を見せるのは、もうこれで最後だから……少しの間だけ、許してくれ。