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09 部屋からは出るな。~魔力不足の世界~

 場所:タークの屋敷(ベッドルーム)

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 ターク様のベッドから出てしばらくすると、メイドのアンナさんが朝食を運んできてくれた。


 ターク様の広々としたベッドルームに置かれた、二人掛けの小さなテーブルセット。そこに、一人分の食事を並べるアンナさん。



「ミヤコさんの朝食です」


「わぁ! ありがとうございます!」



 パンと卵、そして野菜のスープ。まるでお城のような建物で摂る食事にしては、少し質素な気もしなくはない。


 だけど、昨日の昼からなにも食べていなかった私には、ありがたすぎる朝食だった。


 私がまた涙目になっているのを見ると、ターク様は警戒するように「泣くなよ」と言った。


 どうやら彼は、かなり涙が苦手なようだ。


 私は泣くのをぐっと堪えて、「わかりました!」と返事をした。



「ありがとうございます。いただきます!」



 勢いよくパンをほお張ると、ライ麦パンのような素朴な香りが、口のなかいっぱいに広がった。



「んー! 美味しいです」


「ずいぶん嬉しそうだな」



 幸せそうに食べる私を、ターク様はなにか、珍しいものでも見るような顔で見ている。



「ターク様は食べないんですか?」


「……いや、私はいい」



 彼はそう言うと、白いブラウスの上に、金の刺繍が施された青い上着を羽織った。


 ブラウスの首元には、フリフリとしたステキなレースの襟飾がついている。


 上着の方も、気品と高級感が漂っていて、ずいぶんと上質そうな感じがした。



 ――昨日は真っ黒で悪役みたいだったけど、今日はまるで王子様みたい! 貴族のパーティーで豪華な食事を摂る予定なのかな?



 あまりにも眩しくて、思わず目を細めた私に、「なんだ。私が眩しいか?」と、得意げな顔をする彼。



 ――はい! 本当に……!



 手のひらで目の上に影を作りながら、「うんうん」と頷くと、彼は大真面目な顔でこんなことを言った。



「それよりお前、私が出かけてもこの部屋からは出るなよ」


「はい?」


「外に出ればだれに会うかわからない。お前はまた襲われる危険があるからな。そう何度もヒールはできないぞ」



 自分がどんな異世界に飛ばされたのか、少し興味があったけれど、ターク様は私に、部屋から一切外に出るなと言う。



「屋敷内でもダメですか?」


「ああ、昨日のやつらは解雇するが、ここは領主の館だからな。人の出入りが多すぎる。荷運びやら警備やらで、新しく雇ったやつらも大勢いるしな。その点この部屋なら、私がいないときは決まったメイドしか入ってこない。ここにいれば安全だ」



 「とにかく部屋からは出るな」と、ちょっとしつこく念をおす彼。どうも私が昨日襲われたのは、運が悪かっただけではないようだ。



「あの、どうして私、そんなに襲われるんでしょうか?」


「そのゴイム印のせいだ。ゴイムにはほとんど人権がないからな」


「ゴイム……」



 昨日道端に倒れていたとき、通行人たちのゴイムへの態度は本当に冷たかった。誰一人として、傷ついた女性に手を差し伸べるものはおらず、物珍しそうに眺めていただけだった。


 そうかと思えば地下牢に放り込まれ、これでもかと痛め付けられた。


 ここまでひどいと、ターク様が私を助けてくれたことが、逆に不思議なくらいだ。



「本当に、ゴイム……ってなんなんですか?」



 あらためて尋ねると、ターク様は「うーん」と唸りながら、じろじろと私を眺めた。



「……さっきみたいに泣くなよ?」


「もう、泣きませんから、教えてください!」



 私がさらに食いさがると、彼はまた、「仕方がないな」という顔をして、ようやく口を開いた。



「うーん、ゴイムはなんというかな、奴隷の一種だな」


 ――奴隷……!?



 頭をガンッと石の壁にぶつけられたような衝撃が走り、ぽっかりと口を開いた私。



 ――異世界に急に飛ばされたと思ったら、まさか奴隷になってしまったなんて……。



 私の頭には、どこかの暗い洞窟っぽい場所で、強制労働をさせられている人の姿が思い浮かんでいた。


 足に枷をはめられ、鞭で打たれながら、重い岩を運んだり、鉱石的なものを掘り出したりしている人々の姿だ。



 ――もしかして、あの身体中にできていたミミズ腫れはそのせい!?


 ――でも私、日本の女子高生なんですけど……?



 あまりにも現実味がなくて、口を開いたまま、私は「うーむ」と、首を傾げた。


 そのあまりにもアホっぽい顔に呆れたのか、ターク様は小さく首を横に振っている。



「その様子じゃ言っても理解できなさそうだ。詳しいことはまただな」


「え、でも……」


「一見平和そうに見えるが、いまこの国は長引く戦いで疲弊している。苛立っているヤツも多い。とりあえず外に出るな」


「戦いですか……?」


「あぁ。国の境にある鉱山の街、()()()()に押し寄せている魔獣との戦いだ。そのせいでこの国は、魔力回復薬や治療薬、武器に使われる鉱石なんかの、あらゆる物資が不足していてな……」


「なるほど、それで魔力が貴重なんですね」


「あぁ、だからケガをすると治療できず死ぬヤツも多い。あまりひどいと私でも手に負えないこともある」


「わ、わかりました……」



 青ざめて黙り込んでしまった私を見て、ターク様はまた胸を押さえ、整った顔をゆがませた。



「く……。そんな顔をするな。お前の所有者が見つかるまでは、この部屋に置いてやるから」


「ターク様……。ありがとうございます!」



 涙に潤んだ瞳でターク様を見あげると、彼は「だから、泣くな」と、警戒するように身体をのけぞらせた。



「ご、ごめんなさい。気をつけます」


「そうしてくれ」



 少し安心したように、「ふぅ」と息をつくターク様。



 ――とにかくいまは外に出て、昨日みたいな目に遭うのだけは避けたいわ……。


 ――ここに置いてもらえるなら、こんなありがたい話はないわね。



 もし、所有者が見つかってこの部屋を出たなら、私には、奴隷としての厳しい日々が待っているのかもしれない。


 鞭を打たれながらの強制労働の日々を想像すると、本当に頭がクラクラしてくる。


 だけど、『いまはとりあえず、考えないことにしよう』と、思った私。



 ――とにかく、まずは食事よ!



 嫌な想像を振り払うように、私はぶんぶんと首を横に振って、野菜のスープを飲み干した。



 朝食にありつき、少し元気が出てきた宮子。しかし、ターク様に部屋から出るなと言われてしまいます。


 この世界はゴイムの宮子には危険な場所のようです。


 宮子を部屋に置くことを決めたターク様ですが、彼にとってこれは苦渋の選択でした。


 宮子の涙にびびりまくりのターク様が心配です!


 次回、宮子は思った以上にターク様がよい人だったことに気付きます。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 眩しいことが自慢なんですねターク様。 そしてもしかすると食べものも口にしないのでしょうか? やはりゴイムは奴隷でしたか。 そして地球の歴史にあるような単純なものではなさそうです。 魔獣…
[一言] 花車様こんばんは! そして宮子は自分がゴイムという奴隷という身分である事を聞かされる。 本当にこないだまで普通の女子高生だったと言うのにでも部屋にいれば安全は確保される。 こんな不安要素しか…
[良い点] ふあぁ! やっとゴイムの意味が……。 ここで魔獣というキーワードが出てきました。続きが 気になります~。次のページポチっとしよっと。
2022/07/27 17:56 退会済み
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