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08 達也じゃないけど。~あなたは命の恩人です!~[挿絵あり]

 場所:タークの屋敷(ベッドルーム)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 朝のやわらかい光のなか、肌触りのよいシーツの感触が頬をなでている。暖かいベッドからは、懐かしい達也の部屋と同じ香りがしていた。



 ――この感じ久しぶり……。私、達也の部屋で寝ちゃったのかな。


 ――なんだか、とてつもなく長い夢を見ていた気がするわ……。


 ――きっとあの日、達也がいなくなったところから、全部、全部夢だったんだ……。



 そんな希望に満ちた考えが、私の心をフワフワさせている。


 目をあければそこに達也がいて、「みやちゃん、ちゃんと帰って寝なよ」って、笑って言うに違いない。



 ――だけど、すぐに確認するのは嫌だわ……念のためもう一回寝ちゃおう……。



 かけ布団をかぶりなおそうと、もそもそしていると、足元から心地よく響く達也の声が聞こえた。



「目が覚めたか?」


「うーん、達也……もう少しだけ寝させて……」



 彼が私の眠るベッドに座る気配がする。やさしい手つきで私の頭をなでている。



「傷が……まだ痛むのか?」


「傷……?」


 ――そんなのは夢だったはずだけど……?



 むくっと起きあがった私の目に飛び込んできたのは、腕に刻みつけられたあの黒い刻印だった。


 そして、自分が被っている真っ赤なベッドカバー。金の糸で(きら)びやかな刺繍が施されていて、どう見ても一般家庭仕様ではない代物だ。


 さらに上を見あげると、絢爛豪華(けんらんごうか)なベッドの天蓋が見える。



「悪夢の続きか……」



 思わずそう呟くと、隣に座っていた彼が不満そうな声を出した。



「悪夢だと? 一晩中私の加護を受けておいて……。おい、こっちを向け」



 彼は私の顔をつかむと、グイッと自分のほうへ向けた。金色の光に包まれた彼を見てしまったことで、ここに達也がいないことが確定してしまう。


 目の前の彼は、朝の光のなかでも、昨晩と変わらずキラキラに輝いている。


 顔も声も、香りまで達也とまったく同じだけど、この人は昨日の……ターク様だった。



 ――達也じゃない……。



 そう思ったとたん、私の目からぼろぼろと涙があふれ出した。


 ずっと会いたかった達也の顔が目の前にあるのに、達也とよべないことが、余計に悲しく感じるのだ。



 ――やっぱり、達也はいないままなんだ。


「な、なんだ? 痛かったか?」



 私の突然の涙に、焦ったように掴んでいた手をはなすターク様。



「達也、達也……」


「お……おい、私はタークだ。昨日から……私の顔を見ていちいちガッカリするのはやめろ」



 ターク様は怒ったようにそう言うと、苦しそうに胸をおさえ、小さく(うめ)いた。



「く……ミヤコといったな? 本当に変なやつだ。その歳でメソメソ泣くゴイムなんて聞いたことがないぞ」


「ご、ごめんなさい」


「それから、何度も言うが、私はタークだ。人違いはいい加減にしろ」


「は、はい……。ターク様」


「よ、よし。まぁいい……」



 苦り切った顔のターク様。


 私のケガを治し、いまも心配してくれているこの人に、私は人違いばかりして……と、なんだか急に申しわけなくなる。



「昨日頭をぶつけられた衝撃が強すぎたのか?……いや、その前からお前は変だったな」



 ターク様はそう言うと、ベッドに座ったままの私の前に立ち、顔を覗き込んだり、髪をかき分けたりしながら、頭の傷を確認しはじめた。



「とりあえず、一晩で顔の腫れもかなりマシになったな。後頭部の目立つ傷もふさがってきている。数の多い切り傷はまだ跡が目立つな……」



 ブカブカのワンピースの、開いた胸元の切り傷を指でなぞり、「まだ痛みはあるか?」とたずねる彼。


 思わずビクッとしながらも、私は首を横に振った。



「まぁ痛みがないなら後回しだ。魔力が余ったらそのうちヒールをかけてやるから、それまで待っていろ」


「は、はい」


「傷はともかく、ときどき混乱しているのが少し心配だな……。記憶もまだ戻らないか……」



 そんなことを言いながら、今度は頭の傷に手をかざす彼。『寝起きから、なんだかずいぶん熱心だな……』なんて、他人事のように感心してしまった。


 その癒しの光を纏った手から、じわじわと入り込む光の粒子がくすぐったい。


 彼の熱意のおかげなのか、私の傷の状態は、昨日よりかなりよくなっていた。



 ――ときどき意地悪な顔をするけど、思った以上に優しいみたい。


 ――本当に最後まで治療してくれるつもりみたいだし、このひどい世界で、頼れるのはこの人だけだわ。



 ターク様の手の温もりを感じながら、そんな事を考えていた私は、ようやく彼にお礼を言った。



「あの、ターク様、治療、本当にありがとうございます。昨日は、本当に死ぬところでした……」


「いや、あれは私の配慮(はいりょ)不足だと昨日言ったはずだ」


「そんなことはありません。ターク様は命の恩人です! この恩は必ずお返します!」


「そ、そうか」


「それに、何度も人違いしてしまったこともすみませんでした。私、かなり混乱していて……」


「あぁ。心配は要らない。幻術にせよ記憶喪失にせよ、私の癒しの加護は万能だ。そのうち治るさ」



 ターク様はそう言うと、私の頭に手を置いたまま、またほんの少し微笑んだ。彼のやさしさが手のひらから伝わり、胸に染み渡っていく。


 気の抜けた私の心に、いろいろな感情が、突然ごちゃまぜに(あふ)れだした。それと同時に、また大粒の涙が、次から次へとこぼれはじめる。


 昨日襲われたショック、山に登れなかった悔しさ、異世界に飛んできてしまった実感……。


 私が「うあぁん」と声をあげると、ターク様はまた苦しそうに胸をおさえ、整った顔を歪ませた。



「く……おい、泣くなって……」



 しばらくは、苦々しい顔で「おい、泣くな」とばかり繰り返していたターク様。だけど、終いには「仕方ないな」といった顔で、私を自分の胸元に引き寄せ、やさしい手つきで髪をなではじめた。


 癒しの光となつかしい香りに包まれた私は、ますます感極まって、長い間その胸で泣いてしまった。


 挿絵(By みてみん)

 ターク様を見る度「達也じゃない……」と、がっかりしてしまう宮子。ですが、ターク様があんまり懸命に治療してくれるのでようやくお礼を言いました。


 ときどきなんだか苦しそうにしているターク様が心配です。


 次回、ターク様からゴイムがなんなのか聞かされた宮子はショックを受けます。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 宮子ちゃんの達也を思ういじらしさがとても可愛らしく、またターク様のぶっきらぼうな言葉遣いの割には宮子ちゃんを気遣う優しさが出てるところ、キュンとします! [気になる点] ゴイムってなんだ……
[良い点] ターク様も女の涙にはタジタジですか。 記憶まで心配してくれるとは、大概お人よしです。 彼がいなければどうなっていたことやら。 宮子も現実逃避してしまいますよね。 でも恩返しを心掛けるとは…
[一言] 異世界…知らない場所に突然きてしまって酷い事をされそしてその安堵感に触れた時…宮子さん…そうなってしまっても仕方ないですよね。 宮子さんに前向きな何かが訪れる事をお祈りしております(*´ω`…
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